インボイス登録の取りやめとは?登録取消届出書の15日前ルールと2年縛りを解説

消費税

インボイス制度が始まって数年が経ち、登録をやめたいという相談が増えています。取引先からインボイスを求められなくなった、売上が1,000万円以下に落ち着いた、消費税の負担と事務コストが見合わない。理由はさまざまですが、手続き自体は「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を1枚提出するだけです。

ところが、この手続きには2つの落とし穴があります。1つは15日前ルールです。取りやめたい課税期間の初日から起算して15日前の日を1日でも過ぎると、失効するのは翌々課税期間の初日になり、課税事業者の期間が1年延びます。しかもこの日は、土日祝であっても翌日に延長されません。もう1つは、登録の効力が失われても免税事業者に戻れるとは限らないことです。経過措置で登録した事業者には2年縛りがあり、課税事業者選択届出書を出していた事業者にはさらに別の届出が必要です。本記事では、この2点を軸に整理します。

この記事のポイント
  • 取りやめには「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出する
  • 提出は、取りやめたい課税期間の初日から起算して15日前の日まで
  • 1日でも遅れると、失効するのは翌々課税期間の初日。課税事業者の期間が1年延びる
  • 15日前の日が土日祝や年末であっても、翌日に延長されない
  • 登録が失効しても免税事業者に戻れるとは限らない。経過措置で登録した場合は2年縛りがある
  • 課税事業者選択届出書を提出していた場合は、別に不適用届出書の提出が必要

登録取消届出書の提出期限(15日前ルール)

適格請求書発行事業者は、納税地の所轄税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(登録取消届出書)を提出することで、登録の効力を失わせることができます(消費税法57条の2第10項1号)。

効力が失われるのは、原則として提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日です。ただし、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合は、翌々課税期間の初日に失効することになります。

事業者 失効させたい日 届出書の提出期限
個人事業者・12月決算法人 1月1日 前年12月17日まで
3月決算法人 4月1日 3月17日まで
土日祝でも翌日に延長されない
「15日前の日」が日曜日、国民の祝日、その他の一般の休日、土曜日、または12月29日から31日であったとしても、これらの日の翌日にはなりません。条文が「期限」ではなく「日」と定めているため、国税通則法の期限の特例が働かないのです。12月17日が日曜日なら、その前の平日までに提出しなければ間に合いません。この点は他の届出書と決定的に異なります。
設例(3月決算法人)
4月1日から登録を失効させたい場合、3月17日までに登録取消届出書を提出します。3月18日に提出した場合、失効するのは翌々課税期間の初日、つまり1年後の4月1日です。その1年間、インボイスを発行できる代わりに、課税事業者として申告・納付を続けることになります。

登録が失効しても免税に戻れるとは限らない

ここが本記事の核心です。登録取消届出書は、あくまでインボイスを発行できる資格を失わせる手続きにすぎません。消費税の納税義務が消えるかどうかは別の話です。どのように課税事業者になったかで結論が変わります。

経過措置で登録した場合の2年縛り

免税事業者が、課税事業者選択届出書を出さずに登録申請書の提出だけで登録を受けた場合(登録に係る経過措置)、登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間について、事業者免税点制度は適用されません(平成28年改正法附則44条5項)。つまり、登録を取りやめても、その期間は課税事業者のままです。

令和5年10月1日を含む課税期間の登録は例外
制度開始日である令和5年10月1日を含む課税期間中に登録を受けた事業者には、この2年縛りは適用されません。制度開始と同時に登録した多くの事業者は、取消届出書を期限内に出せば、翌課税期間から免税事業者に戻れます。逆に、令和6年以降に登録した事業者は2年縛りの対象です。ここを取り違えると、戻れるはずの年に納税義務が残ります。
登録の経緯 取消後に免税事業者へ戻れるか
令和5年10月1日を含む課税期間中に、経過措置により登録 2年縛りなし。期限内に取消届出書を出せば翌課税期間から戻れる
令和6年以降の課税期間に、経過措置により登録 登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までは戻れない
課税事業者選択届出書を提出して登録 別に「課税事業者選択不適用届出書」の提出が必要(選択の2年縛りあり)
もともと課税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円超) 経過措置の2年縛りなし。基準期間の課税売上高が1,000万円以下になれば免税

課税事業者選択届出書を出していた場合

課税事業者選択届出書を提出して課税事業者になったうえで登録した事業者は、登録取消届出書だけでは免税事業者に戻れません。免税事業者となるには、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税課税事業者選択不適用届出書」を別に提出する必要があります。2枚の届出書が必要で、しかも期限が異なる(登録取消は15日前の日、選択不適用は前日)という構造です。

なお、課税事業者を選択していた期間中に税抜100万円以上の調整対象固定資産や1,000万円以上の高額特定資産を本則課税で取得していれば、3年縛りにより免税事業者に戻れません。詳しくは消費税の3年縛りをご覧ください。2年縛り、3年縛り、15日前ルールが重なり合うため、免税に戻れる最短の課税期間を1つずつ確認する必要があります。

取りやめる前に検討すべきこと

登録をやめれば消費税の納税義務がなくなる場合がある一方で、失うものもあります。取引先が課税事業者の場合、インボイスを発行できないことで仕入税額控除ができなくなり、取引条件の見直しや取引の終了につながるおそれがあります。

選択肢 内容
登録を取りやめる 納税義務が消える場合がある。ただしインボイスを発行できず、取引先への影響を要検討
2割特例を使う 登録を続けつつ、納税額を売上税額の2割に抑える(適用期間・要件あり)
簡易課税を使う 登録を続けつつ、みなし仕入率で計算し事務負担と納税額を軽減する

主要取引先が消費者や免税事業者である事業者(小売・飲食・理美容など)は、インボイスの必要性が低く、取りやめの検討に値します。逆に、法人相手の取引が中心なら、インボイスの2割特例簡易課税制度で負担を抑えながら登録を維持するほうが合理的な場合が多くなります。

実務上の落とし穴

15日前の日を「期限」だと思って土日を待つ
15日前の日は期限ではなく「日」です。土日祝でも翌日に延長されません。1日遅れると失効が1年先になります。
登録を取りやめれば必ず免税に戻れると思う
令和6年以降に経過措置で登録した事業者は、登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間まで免税事業者になれません。登録の効力と納税義務は別の話です。
課税事業者選択不適用届出書を出し忘れる
課税事業者選択届出書を出していた場合、登録取消届出書だけでは課税事業者のままです。適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、選択不適用届出書も提出してください。
取引先に通知しない
登録が失効したことを伝えないと、取引先はインボイスがある前提で仕入税額控除をしてしまいます。相手方の申告誤りを招くため、失効前に必ず通知してください。

想定Q&A集

Q1. 登録をやめるにはどうしますか

「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、納税地の所轄税務署長に提出します。郵送の場合は各国税局のインボイス登録センター宛てです。e-Taxでも提出できます。

Q2. いつまでに提出しますか

取りやめたい課税期間の初日から起算して15日前の日までです。個人事業者が翌年1月1日から失効させたいなら12月17日まで、3月決算法人が4月1日からなら3月17日までです。

Q3. 15日前の日が日曜日だったらどうなりますか

翌日に延長されません。条文が「期限」ではなく「日」と定めているため、国税通則法の期限の特例が働かないのです。土日祝、12月29日から31日も同様です。前倒しで提出してください。

Q4. 1日遅れたらどうなりますか

登録の効力が失われるのは翌々課税期間の初日になります。3月決算法人が3月18日に提出すれば、失効は1年後の4月1日です。その1年間は課税事業者として申告・納付が続きます。

Q5. 登録を取りやめれば免税事業者に戻れますか

必ずしも戻れません。登録の効力と納税義務は別です。経過措置で令和6年以降に登録した場合は、登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間まで免税事業者になれません。課税事業者選択届出書を出していた場合は、別に不適用届出書が必要です。

Q6. 制度開始時に登録した場合も2年縛りがありますか

ありません。令和5年10月1日を含む課税期間中に経過措置により登録を受けた事業者は、2年縛りの対象外です。期限内に取消届出書を提出すれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下である限り、翌課税期間から免税事業者に戻れます。

Q7. 令和6年に登録しました。いつから免税に戻れますか

登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者になれません。個人事業者が令和6年1月1日に登録したなら、令和6年分と令和7年分は課税事業者です。年の途中で登録した場合は課税事業者の期間が2年を超え、申告が3回必要になることもあります。

Q8. もともと課税事業者だった場合はどうですか

基準期間の課税売上高が1,000万円超で課税事業者だった事業者は、経過措置の2年縛りの対象外です。登録取消届出書を期限内に提出すれば翌課税期間から登録は失効し、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者になります。

Q9. 廃業する場合も取消届出書が必要ですか

不要です。個人事業者が死亡または事業廃止した場合、法人が清算結了または合併により消滅した場合には、登録取消届出書の提出は要しません。それぞれ所定の届出書を提出します。

Q10. 取りやめた後、また登録できますか

できます。ただし再登録の際、免税事業者であれば課税事業者選択届出書の提出が前提となる場合があり、その場合は選択の2年縛りがかかります。安易な取りやめと再登録の往復は、かえって納税義務を長引かせます。

Q11. 取引先には知らせる必要がありますか

必ず知らせてください。登録が失効した後もインボイスがある前提で処理されると、取引先が仕入税額控除を誤ることになります。国税庁の公表サイトからも登録は削除されますが、事前の通知が実務上のマナーであり、トラブル防止にもなります。

Q12. 取りやめるべきか、続けるべきか迷います

取引先の構成で判断します。売上の大半が消費者や免税事業者向けなら、インボイスの必要性は低く取りやめの余地があります。法人取引が中心なら、2割特例や簡易課税で負担を抑えつつ登録を維持するほうが合理的なことが多いといえます。取引を失うリスクと納税額を、数字で比較してください。

取りやめの判断フロー

手順 確認すること
1 取引先の構成を確認する(消費者・免税事業者中心か、法人中心か)
2 2割特例・簡易課税で負担を抑えて登録を維持する選択肢と比較する
3 どのように課税事業者になったかを確認する(経過措置か、課税事業者選択か、基準期間か)
4 2年縛り・3年縛りを確認し、免税に戻れる最短の課税期間を特定する
5 その課税期間の初日から起算して15日前の日までに登録取消届出書を提出する(土日祝でも延長なし)
6 必要なら課税事業者選択不適用届出書も提出し、取引先へ事前通知する

まとめ

インボイス登録の取りやめは、届出書1枚で済む手続きに見えて、期限と効果の両面に罠があります。15日前の日は期限ではなく日であり、土日祝でも延長されません。そして、登録の効力を失わせることと、免税事業者に戻ることは別の話です。どのように課税事業者になったかを確認し、2年縛り・3年縛りを踏まえて免税に戻れる最短の課税期間を特定してから、逆算して届出書を提出してください。

この記事のまとめ
  • 取りやめは「登録の取消しを求める旨の届出書」を提出する(消費税法57条の2第10項1号)
  • 提出は取りやめたい課税期間の初日から起算して15日前の日まで。1日遅れると失効は1年先
  • 15日前の日は土日祝でも翌日に延長されない
  • 令和5年10月1日を含む課税期間の登録なら2年縛りなし。令和6年以降の経過措置による登録は2年縛りあり
  • 課税事業者選択届出書を出していた場合は、課税事業者選択不適用届出書も必要
  • 取りやめの前に、2割特例や簡易課税で登録を維持する選択肢と比較する

※本記事は作成時点の法令・公表資料(消費税法57条の2第10項1号、消費税法施行令70条の5、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則44条5項、国税庁「D1-70 適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出手続」、消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A、インボイス制度において事業者が注意すべき事例集等)に基づく一般的な解説です。個別の判断は事実関係により異なるため、具体的な取扱いは最新の法令の確認、所轄税務署への照会、または税理士へのご相談をおすすめします。

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