個人事業税とは|290万円控除と法定業種70業種・税率を解説

地方税

確定申告を終えて一息ついた8月ごろ、都道府県から突然「個人事業税」の納税通知書が届いて驚く人は少なくありません。所得税も住民税も納めたのに、なぜもう一つ税金がかかるのか。しかも、同じくらいの所得でも課税される人とされない人がいて、業種によって税率まで違います。所得税の感覚のまま計算すると金額が合わないことも多く、つまずきやすい税です。

本記事では、個人事業税が所得税とはまったく別の考え方に立つ地方税だという原理から入り、課税される人と対象外になる人の線引き、業種ごとの税率、事業主控除290万円を含む計算の型、そして青色申告特別控除が使えないという実務上いちばん間違えやすい点まで整理します。

この記事のポイント
  • 個人事業税は、地方税法で定められた法定業種70業種を営む個人に、事務所などのある都道府県が課す地方税です。
  • 事業主控除が年290万円あるため、事業所得が290万円以下なら課税されません。
  • 税率は業種の区分で異なり、第1種5%・第2種4%・第3種5%(あんま等と装蹄師業は3%)です。
  • 所得税の青色申告特別控除は個人事業税では使えないため、所得に加算して計算します。ここが計算違いの最大の原因です。
  • 所得税の確定申告をしていれば別途申告は不要で、8月と11月の年2回、納税通知書で納付します。納めた税は租税公課として必要経費になります。

個人事業税とは

個人事業税は、地方税法に基づき、都道府県内に事務所や事業所を設けて法定業種の事業を営む個人に課される地方税です。事業を営むうえで道路や公共施設などの行政サービスを利用していることから、その費用の一部を事業者にも負担してもらう、という応益負担の考え方に立っています。法人に課される法人事業税の、個人版にあたる位置づけです。

納税義務者は個人事業主に限られません。開業届を提出していない会社員でも、法定業種にあたる事業を営み、その所得が事業主控除を超えれば課税対象になり得ます。反対に、開業届を出していても、営む事業が法定業種に該当しなければ課税されません。判定の軸は届出の有無ではなく、事業の実態と業種です。

所得税と何が違うのか

個人事業税でつまずく人が多いのは、所得税と同じ「事業の儲け」に課される税なのに、計算のルールが別物だからです。ここを一段抽象化して押さえると、以降の細かい違いがすべて説明できます。

所得税は担税力への課税、個人事業税は事業への応益負担
所得税は、その人の負担能力に応じて課す国税です。だからこそ、扶養や医療費などの個人的な事情を反映する各種所得控除があり、帳簿を適正につけたことへの特典として青色申告特別控除も認められます。一方、個人事業税は、行政サービスを使って事業を営んでいることへの負担を求める地方税です。個人の事情や記帳の特典は関係がないため、所得控除も青色申告特別控除も反映されず、代わりに事業主本人の労働対価に相当する部分として事業主控除290万円が一律で差し引かれます。

この原理を押さえておけば、なぜ青色申告特別控除を足し戻すのか、なぜ扶養控除が効かないのか、なぜ業種によって課税されたりされなかったりするのかが、個別に暗記しなくても筋道で理解できます。

項目 所得税 個人事業税
課税主体 国(国税) 都道府県(地方税)
対象 すべての所得 法定業種の事業所得等
所得控除 扶養・医療費など
各種控除あり
なし
(事業主控除290万円)
青色申告
特別控除
あり
(65万円等)
なし
(所得に加算)
損失の繰越 青色は3年 青色は3年

法定業種と税率の早見表

課税されるのは、地方税法が定める法定業種70業種を営む場合です。業種は第1種・第2種・第3種に区分され、区分ごとに税率が決まっています。

区分 主な業種 税率
第1種
(37業種)
物品販売業・製造業・飲食店業・
不動産貸付業・運送業・出版業・
広告業・請負業・駐車場業など
5%
第2種
(3業種)
畜産業・水産業・薪炭製造業 4%
第3種
(30業種)
医業・歯科医業・弁護士業・
税理士業・美容業・理容業・
デザイン業・コンサルタント業など
5%
第3種
(一部)
あんま・マッサージ・指圧・はり・
きゅう・柔道整復その他の医業に
類する事業、装蹄師業
3%

課税されない業種があるのはなぜか

個人事業税は、法律が列挙した70業種にあたる場合にだけ課税される仕組みです。裏を返せば、どの業種にも当てはまらない事業は、所得がいくら大きくても課税されません。代表例が、文筆業(ライター・作家)、画家や漫画家などの芸術家、通訳、そしてプログラマーやシステムエンジニアといった職種です。

ただし、業種名で機械的に決まるわけではなく、実態で判断されます。たとえばプログラマーでも、受託開発を請け負う形態であれば請負業、システム導入の助言が中心ならコンサルタント業、デザイン制作が主ならデザイン業として、法定業種に該当すると判断されることがあります。自称の肩書きではなく、契約と業務の中身で判定される点に注意が必要です。判断に迷う場合は、都道府県税事務所に事前に確認するのが確実です。

計算方法と事業主控除

計算の基本は、事業の所得から事業主控除290万円を差し引き、税率を掛けるだけです。ただし、所得税の申告書の所得金額をそのまま使うと誤ります。青色申告特別控除を差し引いた後の金額になっているためです。

手順 内容
1 事業の総収入から必要経費を差し引く
2 青色申告特別控除を差し引いていれば加算し直す
3 専従者給与(控除)や各種控除を差し引く
4 事業主控除290万円を差し引く
(営業期間が1年未満なら月割)
5 業種の区分に応じた税率(3%・4%・5%)を掛ける

具体例で見ます。飲食店業(第1種・5%)で、青色申告特別控除65万円を適用した後の事業所得が400万円だったとします。個人事業税では青色申告特別控除が使えないため、まず65万円を加算して465万円とし、そこから事業主控除290万円を引いた175万円に5%を掛けて、税額は8万7500円となります。青色申告特別控除を加算し忘れると、税額を3万2500円も少なく見積もることになります。

青色事業専従者給与や白色の事業専従者控除(配偶者86万円・その他1人50万円が限度)は、個人事業税でも差し引けます。ただし、これらは所得税の取扱いに準じるため、届出や要件を満たしていることが前提です。詳しくは青色事業専従者給与の記事も参照してください。

申告・納付と仕訳

所得税の確定申告または住民税の申告をしていれば、個人事業税について別途申告する必要はありません。申告内容が都道府県に共有され、都道府県税事務所が税額を計算して納税通知書を送ってきます。納付は原則として8月と11月の年2回です。

納めた個人事業税は、租税公課として必要経費に算入できます。所得税や住民税は必要経費にできませんが、個人事業税は事業に対して課される税であるため、経費になります。翌年の所得税・住民税・個人事業税の負担を下げる効果があるため、計上漏れがないようにします。

場面 借方 貸方
事業用口座から
個人事業税を納付
租税公課 普通預金
事業主の私費から
個人事業税を納付
租税公課 事業主借

実務でありがちな落とし穴

落とし穴1:青色申告特別控除を引いたまま計算する
個人事業税に青色申告特別控除の適用はありません。所得税の申告書の所得金額をそのまま使うと、控除額の分だけ税額を少なく見積もることになります。65万円控除なら、5%の業種で3万2500円の差が出ます。
落とし穴2:所得290万円以下なら常に非課税だと思い込む
事業主控除290万円は、営業期間が1年に満たない場合は月割になります。年の途中で開業・廃業した年は控除額が減るため、所得が290万円以下でも課税されることがあります。
落とし穴3:業種名だけで対象外と判断する
ライターやプログラマーは対象外とされることが多いものの、実態が請負業・コンサルタント業・デザイン業と判断されれば課税されます。契約形態や業務の中身で判定されるため、自己判断で対象外と決めつけないことが大切です。
落とし穴4:資金繰りの予定から抜けている
個人事業税は8月と11月に納付書が届きます。3月に所得税を納めた後に忘れがちで、8月に急な支出として現れます。所得税・住民税・国民健康保険料とあわせて、年間の納付スケジュールに組み込んでおく必要があります。

課税されるかの判断フロー

手順 確認する内容
1 営む事業が法定業種70業種に該当するかを
実態(契約と業務内容)で確認する
2 青色申告特別控除を加算した後の事業所得を算出する
3 事業主控除290万円(1年未満は月割)を超えるかを確認する
4 該当する業種区分の税率を掛けて税額を試算する
5 8月・11月の納付に備えて資金を確保する

想定問答

問1 所得がいくらから課税されますか

結論として、事業主控除290万円を超えた部分から課税されます。理由は、事業主本人の労働対価に相当する部分として一律290万円が差し引かれるためです。ただし、判定に使う所得は青色申告特別控除を加算した後の金額なので、所得税の申告書上は290万円以下でも課税されることがあります。営業期間が1年未満なら控除額は月割になります。

問2 なぜ青色申告特別控除が使えないのですか

結論として、青色申告特別控除は所得税の制度であり、個人事業税には適用がないためです。理由は、個人事業税が行政サービスへの応益負担として事業の規模に応じて課される税であり、記帳の正確性に対する特典を反映する建て付けではないからです。反対に、青色申告者の損失の繰越控除は個人事業税でも3年間認められており、青色申告の効果がまったくないわけではありません。

問3 ライターやプログラマーは本当に非課税ですか

結論として、法定業種に該当しなければ非課税ですが、実態次第で課税されます。理由は、個人事業税が法律の列挙する70業種にあたるかどうかで判定され、その判断は肩書きではなく契約と業務内容で行われるためです。純粋な文筆業や芸術活動は対象外とされる一方、受託開発は請負業、助言中心ならコンサルタント業と判断されることがあります。都道府県税事務所に確認するのが確実です。

問4 個人事業税の申告は別に必要ですか

結論として、所得税の確定申告または住民税の申告をしていれば、別途申告する必要はありません。理由は、申告内容が都道府県に共有され、都道府県税事務所が税額を計算するためです。ただし、確定申告をしない年や、事業を廃止した場合などは、個人事業税の申告が必要になることがあります。廃業した場合は、廃業日から一定期間内の申告が求められます。

問5 いつ納付しますか

結論として、原則8月と11月の年2回です。理由は、都道府県税事務所が前年の所得に基づいて税額を計算し、8月に納税通知書を送付して2期に分けて徴収する運用が一般的だからです。税額が少額の場合は8月の1回にまとめられることもあります。3月の所得税の納付から数か月空くため、資金繰りの計画から抜け落ちやすい点に注意します。

問6 個人事業税は経費になりますか

結論として、租税公課として必要経費になります。理由は、事業に対して課される税であり、事業活動と直接の関係があるためです。反対に、所得税や住民税は個人に課される税なので必要経費にはできません。同じ税金でも、事業に課されるものか個人に課されるものかで扱いが分かれます。

問7 不動産の賃貸をしていますが対象になりますか

結論として、不動産貸付業として一定規模以上であれば対象になります。理由は、不動産貸付業が第1種事業に含まれているためです。判定の目安となる規模(戸数・室数・面積など)は都道府県が基準を定めており、たとえばアパートの室数や貸地の件数が一定以上になると事業的規模とされます。所得税で不動産所得として申告していても、規模によっては個人事業税がかかります。

問8 会社員の副業でも課税されますか

結論として、法定業種の事業を営み、所得が事業主控除を超えれば課税されます。理由は、納税義務が開業届の有無ではなく事業の実態で判定されるためです。ただし、副業の所得が雑所得と判定される場合は事業所得ではないため、個人事業税の対象にならないのが原則です。副業が事業所得か雑所得かの判定が、そのまま個人事業税の入口を左右します。

問9 赤字の場合はどうなりますか

結論として、赤字の年は課税されず、青色申告者なら損失を翌年以降3年間繰り越せます。理由は、地方税法が青色申告者の損失の繰越控除を認めているためです。白色申告者でも、震災・風水害・火災などによる事業用資産の損失は3年間繰り越せます。ただし繰越を受けるには、原則として毎年期限内に申告していることが必要です。

問10 法人成りすると個人事業税はどうなりますか

結論として、法人成り後は個人事業税ではなく法人事業税の対象になります。理由は、事業の主体が個人から法人へ移るためです。ただし、法人成りした年は、それまでの個人としての事業期間について個人事業税がかかり、事業主控除は月割になります。法人成りの損得を比べるときは、個人事業税の負担も判断材料に入れておくとよいでしょう。

まとめ
  • 個人事業税は、法定業種70業種を営む個人に都道府県が課す地方税で、応益負担の考え方に立っています。
  • 税率は第1種5%・第2種4%・第3種5%(あんま等と装蹄師業は3%)で、事業主控除290万円を超えた部分に課税されます。
  • 青色申告特別控除は適用されないため、所得に加算して計算します。ここが最大の計算違いの原因です。
  • 法定業種に該当しない文筆業・芸術家・プログラマー等は対象外ですが、実態が請負業やコンサルタント業なら課税されます。
  • 確定申告をしていれば別途申告は不要で、8月と11月に納付します。納めた税は租税公課として必要経費になります。

※本記事は令和8年7月時点の法令および公表資料(地方税法72条の2・72条の49の12ほか、東京都主税局等の案内)に基づく一般的な解説です。業種の判定基準や不動産貸付業の事業的規模の目安、減免の取扱いは都道府県により異なります。実際の判定にあたっては、事務所所在地の都道府県税事務所および顧問税理士への確認をお願いします。

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