消費税の免税事業者が、あえて自分から課税事業者になりたいときに提出するのが、消費税課税事業者選択届出書です。大きな設備投資や輸出取引で、預かった消費税より支払った消費税が多くなる年は、課税事業者になれば還付を受けられる可能性があります。ただし、いったん課税事業者を選ぶと原則2年間は免税事業者に戻れず、その間に一定の固定資産を買うとさらに3年縛りがかかります。「還付を受ける年だけ課税事業者になる」という都合のよい使い方ができない点が、この届出のいちばんの注意点です。この記事では、提出期限、2年縛りと3年縛り、やめるときの不適用届、そしてインボイス登録との関係までを整理します。
- 免税事業者が自ら課税事業者になるための届出(消費税法9条4項)
- 提出期限は、適用を受けたい課税期間の初日の前日まで(原則、前期の末日まで)
- いったん選ぶと、原則2年間は免税事業者に戻れない(2年縛り)
- 2年縛りの間に税抜100万円以上の固定資産を買うと、3年縛りに延びる
- インボイス登録をすれば課税事業者になるので、この届出書は原則不要
課税事業者選択届出書とは
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除される免税事業者です。その免税事業者が、あえて課税事業者になることを選ぶために提出するのが消費税課税事業者選択届出書です(消費税法9条4項)。課税事業者になると、売上で預かった消費税から仕入や経費で支払った消費税を差し引いて申告するため、支払った消費税のほうが多い年は差額の還付を受けられます。開業初年度に多額の設備投資をする場合や、輸出免税で売上に消費税が乗らない場合などが典型例です。免税・課税の判定そのものは消費税の納税義務判定をご覧ください。
提出期限と効力の発生時期
提出期限は、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までです。言い換えると、前の課税期間の末日までに出せば、翌課税期間から課税事業者になります。たとえば3月決算の法人が翌期の4月1日から課税事業者になりたいなら、当期の3月31日までに提出します。新規開業した個人や新設法人が、最初の課税期間から課税事業者になりたい場合は、その課税期間中に提出すれば、その課税期間から適用されます。
| 区分 | 提出期限と効力 |
|---|---|
| 原則 | 適用したい課税期間の初日の前日までに提出。翌課税期間から課税事業者 |
| 新規開業・新設法人 | その課税期間中に提出すれば、その課税期間から課税事業者 |
| やむを得ない事情 | 震災等で間に合わない場合は、特例承認申請により提出したものとみなされる |
やむを得ない事情とは、震災・災害など事業者に責任のない場合に限られ、提出を忘れていたといった理由は認められません。
インボイス登録との関係(提出前に必ず確認)
ここが最も間違えやすいところです。言い切ると、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をすれば、その登録によって課税事業者になるため、課税事業者選択届出書を重ねて提出する必要はありません。経過措置期間中に免税事業者が登録申請をする場合、選択届出書は不要です。したがって、この選択届出書が今も必要なのは、インボイス発行はしないけれど課税事業者になりたいケース、たとえば取引先が消費者や免税事業者中心でインボイスは求められないが、設備投資や輸出で還付を受けたい、といった場面に絞られます。インボイス登録をするなら、この届出書ではなく登録申請を行います。制度の全体像はインボイス制度とはをご覧ください。
2年縛り(原則2年は戻れない)
課税事業者を選択すると、事業を廃止した場合を除き、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、やめるための不適用届を提出できません(消費税法9条6項)。つまり、原則として最低2年間は課税事業者を続ける必要があります。還付が見込める年だけ課税事業者になり、翌年すぐ免税に戻る、という使い方はできません。選択する前に、2年分の納税と事務負担を見込んで判断します。
調整対象固定資産の3年縛り
2年縛りの間に大きな固定資産を買うと、縛りが3年に延びます。具体的には、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までに開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入れを行い、その課税期間を一般課税で申告した場合、その仕入れた課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、免税事業者に戻れず、簡易課税も選べません(消費税法9条7項)。調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、税抜の価額が100万円以上のもの(建物・機械装置・器具備品など)です。還付を受けるために大きな設備を買うと、その分だけ課税事業者でいる期間が延びる、という関係です。3年縛りの詳しい仕組みは消費税の3年縛りをご覧ください。
やめるとき:課税事業者選択不適用届出書
課税事業者の選択をやめて免税事業者に戻るには、消費税課税事業者選択不適用届出書を提出します(消費税法9条5項)。免税事業者に戻りたい課税期間の初日の前日までに提出すれば、翌課税期間から免税事業者に戻れます。ただし、前述の2年縛り・3年縛りの期間を過ぎていることが条件で、期間中は提出できません。また、この不適用届を出していても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている課税期間は、そもそも課税事業者になるため、納税義務は免除されません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出期限 | 免税に戻りたい課税期間の初日の前日まで |
| 提出できる時期 | 2年縛り・3年縛りの期間を過ぎてから |
| 注意 | 基準期間の課税売上高が1,000万円超なら、提出していても課税事業者 |
届出書の書き方
様式は国税庁のホームページからダウンロードでき、記載事項は多くありません。適用開始課税期間と、その基準期間・課税売上高を正確に書くのがポイントです。
| 欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 提出先・提出日 | 納税地の所轄税務署長と提出年月日 |
| 納税地・氏名等 | 住所・電話番号、氏名または名称、法人番号または個人番号 |
| 適用開始課税期間 | 課税事業者になる課税期間の初日と末日 |
| 基準期間・課税売上高 | その基準期間と、基準期間の課税売上高 |
提出先は納税地の所轄税務署長で、窓口への持参・郵送・電子申告のいずれかで提出します。押印は原則不要です。
実務上の落とし穴
還付の年だけ課税事業者になれると思う
2年縛りがあるため、還付が出る年だけ課税事業者になって翌年すぐ戻る、という使い方はできません。少なくとも2年、固定資産を買えば3年は課税事業者を続けます。2年目以降に納める消費税まで含めて、トータルで得かどうかを判断します。
インボイス登録者が重ねて提出する
インボイス登録をすれば課税事業者になるため、課税事業者選択届出書を重ねて出す必要はありません。登録するのに選択届出書も出すと、手続きが二重になります。インボイス登録をするのか、登録はせず課税事業者だけになりたいのかを、先に整理します。
設備投資で3年縛りになるのを見落とす
還付を受けるために税抜100万円以上の固定資産を買うと、2年縛りが3年縛りに延びます。免税に戻れる時期がずれるので、大きな設備投資を予定しているなら、戻れる時期を先に確認します。
不適用届の提出を1年ずらしてしまう
免税に戻るには、戻りたい課税期間の初日の前日までに不適用届を出す必要があります。出し忘れると、また1年、課税事業者が続きます。縛りが明ける年を把握し、その前期の末日までに提出します。
選択届を出していると2割特例が使えない
2割特例は、インボイスを機に課税事業者になった人が対象です。インボイス制度の開始前から選択届出書を出して自ら課税事業者になっていた場合は、原則として2割特例の対象外です。この場合、登録日を含む課税期間中に不適用届を出して選択届の効力を失わせる、といった手続きが必要になることがあります。2割特例の対象はインボイスの2割特例をご覧ください。
判断フロー
| 手順 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | インボイス発行事業者になるか(なるなら登録申請。選択届は不要) |
| 2 | 登録せず課税事業者だけになりたいか(還付狙いなど)を確認する |
| 3 | 2年縛り・設備投資による3年縛りを織り込んで損得を判断する |
| 4 | 適用したい課税期間の初日の前日までに選択届出書を提出する |
| 5 | 戻るときは縛りが明けてから、前期の末日までに不適用届を提出する |
想定Q&A集
Q1. そもそも何のために課税事業者になるのですか
主な目的は消費税の還付です。開業時の多額の設備投資や、売上に消費税が乗らない輸出取引がある年は、支払った消費税のほうが多くなり、課税事業者なら差額の還付を受けられます。免税事業者のままでは還付は受けられません。
Q2. いつまでに出せばいつから課税事業者ですか
原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに出せば、その課税期間(提出した期の翌期)から課税事業者になります。新規開業や新設法人が最初の課税期間から課税事業者になりたい場合は、その課税期間中に提出すれば、その期から適用されます。
Q3. インボイス登録をするなら、この届出書も要りますか
原則として要りません。インボイスの登録をすれば、その登録によって課税事業者になるため、課税事業者選択届出書を重ねて出す必要はありません。登録はせず課税事業者だけになりたい場合に、この届出書を使います。
Q4. 還付を受けた翌年に免税へ戻れますか
原則として戻れません。2年縛りにより、最低2年は課税事業者を続けます。さらに、その間に税抜100万円以上の固定資産を買って一般課税で申告すると3年縛りになり、戻れる時期がさらに延びます。
Q5. 調整対象固定資産とは何ですか
棚卸資産以外の資産で、税抜の価額が100万円以上のものです。建物、機械装置、車両、器具備品などが該当します。これを2年縛りの期間中に買って一般課税で申告すると、3年縛りの対象になります。
Q6. 免税に戻るにはどうすればよいですか
課税事業者選択不適用届出書を、免税に戻りたい課税期間の初日の前日までに提出します。ただし2年縛り・3年縛りの期間を過ぎていることが条件です。提出すれば翌課税期間から免税事業者に戻れます。
Q7. 不適用届を出せば必ず免税に戻れますか
戻れないことがあります。不適用届を出していても、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間は、そもそも課税事業者になるため、納税義務は免除されません。売上が伸びている場合は、届出とは別に判定を確認します。
Q8. 提出を忘れたら救済はありますか
原則としてありません。期限までに出さなければ、その課税期間は免税事業者のままです。震災・災害などやむを得ない事情がある場合に限り、特例承認申請により提出したものとみなされる制度がありますが、失念は対象外です。
Q9. 課税事業者になったら簡易課税は選べますか
原則として選べますが、還付を受けるなら一般課税である必要があります。簡易課税は納付額を計算する方式で、還付は生じにくいためです。また、2年縛りの間に調整対象固定資産を買って一般課税で申告した場合は、3年縛りにより簡易課税を選べない期間が生じます。簡易課税の仕組みは消費税の簡易課税制度をご覧ください。
Q10. 提出先と提出方法を教えてください
提出先は納税地の所轄税務署長です。様式は国税庁のホームページからダウンロードでき、窓口への持参・郵送・電子申告のいずれかで提出します。控えを保管し、適用開始課税期間と基準期間の課税売上高に誤りがないか確認しておきます。
まとめ
消費税課税事業者選択届出書は、免税事業者が還付などの目的で自ら課税事業者になるための届出です。提出期限は適用したい課税期間の初日の前日までで、いったん選ぶと原則2年、設備投資をすれば3年は免税に戻れません。戻るときは不適用届を、縛りが明けたうえで前期の末日までに出します。最初に確認すべきは、インボイス登録をするかどうかです。登録するなら登録申請だけでよく、この選択届出書は不要です。縛りの長さと2年目以降の納税まで見通して、慎重に判断しましょう。
- 免税事業者が自ら課税事業者になる届出(提出期限は適用課税期間の初日の前日まで)
- 原則2年は免税に戻れず、設備投資をすると3年縛りに延びる
- 戻るときは不適用届を、縛りが明けてから前期末日までに提出
- 不適用届を出しても、基準期間の課税売上高が1,000万円超なら課税事業者
- インボイス登録をするなら登録申請で足り、この選択届出書は不要
※本記事は作成時点の消費税法・国税庁の資料に基づく一般的な解説です。インボイス制度の経過措置や2割特例との関係は個別事情で異なるため、具体的な判断は最新の情報の確認や、顧問税理士への相談をおすすめします。

