法人が支払う生命保険の保険料は、かつては「支払った保険料の多くを損金にしながら、解約時にまとまったお金が戻る」という節税策として広く使われていました。しかし令和元年(2019年)の税制改正で、解約返戻率の高い保険ほど損金にできる割合が制限され、この構図は大きく変わりました。本記事では、改正後の損金算入ルール(法人税基本通達9-3-5の2)を、最高解約返戻率による区分に沿って整理します。
結論を先に言えば、法人保険による「節税」の多くは、税金が消えるのではなく課税の繰延べにすぎません。損金算入で当期の税負担を抑えても、解約返戻金を受け取る年度には益金として課税されます。したがって、保険を検討する際は、損金算入のルールを正しく理解したうえで、解約金を受け取る「出口」で何に充てるか(役員退職金など)まで含めて考えることが欠かせません。
- 令和元年改正(法基通9-3-5の2)で、定期保険等は最高解約返戻率により損金算入割合が制限された
- 区分は50%以下・50%超70%以下・70%超85%以下・85%超の4つ。返戻率が高いほど資産計上が増える
- 資産計上した保険料は、保険期間の後半に取り崩して損金にする(課税の繰延べ)
- 解約返戻金は受取時に益金課税されるため、出口(役員退職金等)とセットで考える必要がある
- 養老保険のハーフタックスプランは、要件を満たせば保険料の2分の1を損金にできる別枠の取扱い
目次
法人保険の節税の実像は「課税の繰延べ」
まず、制度の理解の土台として、法人保険の「節税」の本質を押さえます。保険料を損金算入すると、その分だけ当期の課税所得が減り、法人税が軽くなります。しかし、解約返戻金を受け取ったときには、その返戻金が益金となって課税されます。つまり、支払時に軽くなった税は、解約時に戻ってくる形で課税されるだけで、税額そのものが消えるわけではありません。
この「支払時に損金、受取時に益金」という時間差が、法人保険の本質です。したがって、単に保険料を損金にできること自体には、恒久的な節税効果はありません。効果が生まれるのは、解約返戻金を受け取る年度に、それと同額程度の損金(たとえば役員退職金)を計上して、益金と相殺できる場合です。出口で相殺できる損金がなければ、繰り延べた税負担が解約時にそのまま顕在化します。
令和元年改正の背景
改正前は、定期保険であれば支払保険料を全額損金にできるものが多く、これを利用して、保険料の大半を損金にしながら高い解約返戻率でお金を回収する、いわゆる「節税保険」が広がっていました。保険料の損金算入で税を抑え、返戻率がピークになる時期に解約して資金を回収する、という使い方です。
国税庁は、こうした保険料の損金性と実態(貯蓄性)のずれを問題視し、令和元年(2019年)に法人税基本通達9-3-5の2を新設しました。考え方はシンプルで、解約返戻率が高い保険ほど、保険料に含まれる前払部分(貯蓄部分)が多いとみて、その前払部分に相当する金額を資産計上させ、損金算入を制限する、というものです。この改正は、令和元年7月8日以後に契約した定期保険等に適用されます(それより前の契約は従来の取扱い)。
最高解約返戻率による4区分
改正後のルールの中心が、最高解約返戻率による区分です。最高解約返戻率とは、その保険の保険期間を通じて、解約返戻率(解約返戻金÷それまでに支払う保険料の合計)が最も高くなる時点の割合をいいます。対象は、保険期間3年以上で最高解約返戻率50%超の定期保険・第三分野保険です。区分は次の4つです。
| 最高解約返戻率 | 資産計上額(残りが損金) | 資産計上期間 |
|---|---|---|
| 50%以下 | 資産計上なし(全額損金) | – |
| 50%超70%以下 | 当期分保険料の40%(60%が損金) | 保険期間開始から40%の期間 |
| 70%超85%以下 | 当期分保険料の60%(40%が損金) | 保険期間開始から40%の期間 |
| 85%超 | 当初10年は保険料×最高解約返戻率×90%、11年目以降は×70% | 最高解約返戻率となる期間まで(注あり) |
返戻率が高い区分ほど、資産計上する割合が大きく(損金にできる割合が小さく)なります。とくに85%超は、当初10年間は保険料の大部分を資産計上することになり、損金にできる部分はごくわずかです。改正前のように「高返戻率で全額損金」という使い方はできなくなりました。
区分ごとの資産計上と損金算入
各区分の処理を、もう少し具体的に見ます。資産計上した保険料(前払保険料)は、保険期間の後半に取り崩して損金にします。この取崩しがあるため、保険期間を通算すれば、支払保険料はいずれ全額が損金になります。区分によって、損金にする「タイミング」が違うだけ、という点が重要です。
計算例:最高解約返戻率72%・年払保険料100万円の定期保険
取崩しの時期は区分により異なります。50%超85%以下は、保険期間の75%が経過した後から保険期間終了まで均等に取り崩します。85%超は、解約返戻金が最高額となる期間を経過した後から、保険期間終了までの取崩しです。なお、資産計上期間が5年未満となる場合は5年間(保険期間が10年未満の場合は保険期間の2分の1相当期間)とする、といった調整もあります。
仕訳イメージ(最高解約返戻率72%・年払100万円・資産計上期間中)
(借)保険料 40万円 /(貸)現金預金 100万円
(借)前払保険料 60万円 /
資産計上期間の経過後は全額を保険料(損金)とし、保険期間75%経過後から前払保険料を取り崩して損金算入します。
30万円以下の全額損金特例
区分の例外として、少額の保険には全額損金の取扱いが残されています。最高解約返戻率が70%以下で、かつ1被保険者あたりの年換算保険料相当額が30万円以下の定期保険・第三分野保険は、資産計上せず全額を損金算入できます(法基通9-3-5の例)。
年換算保険料相当額とは、保険料の総額を保険期間の年数で割った金額です。この判定は被保険者ごとに行い、同じ人について複数の定期保険等に加入している場合は、それらの年換算保険料相当額を合計して30万円以下かを判定します。したがって、1人あたり年30万円以下に収まる範囲であれば、複数契約でも全額損金にできますが、1円でも超えると、その被保険者の契約は原則どおり返戻率区分に応じた資産計上が必要になります。
養老保険のハーフタックスプラン
定期保険とは別の枠組みとして、養老保険を使ったハーフタックスプラン(福利厚生プラン)があります。これは、養老保険の保険料の2分の1を損金にできる取扱いで、改正後も維持されています。要件を満たせば、貯蓄性のある養老保険でありながら、保険料の半分を福利厚生費として損金算入できます。
| 契約形態 | 内容 |
|---|---|
| 契約者 | 法人 |
| 被保険者 | 全従業員(普遍的加入が要件) |
| 死亡保険金の受取人 | 被保険者の遺族 |
| 満期保険金の受取人 | 法人 |
この形態では、保険料の2分の1を福利厚生費として損金算入し、残り2分の1を保険積立金として資産計上します。ポイントは、特定の役員だけでなく従業員全員を対象にする(普遍的加入)ことが要件である点です。一部の役員だけを被保険者にすると、福利厚生としての普遍性が否定され、その保険料が給与とされるおそれがあります。加入基準を勤続年数などで合理的に設ける場合も、特定の者に偏らないことが求められます。
注意点と落とし穴
落とし穴1:出口がなければ節税にならない
落とし穴2:名義変更プランへの規制
落とし穴3:特定の役員のみだと給与になる
判断フロー
法人が加入する定期保険等の損金算入を、上から順に判断するフローです。
| 順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 被保険者は特定の役員・使用人のみで受取人が本人・遺族か。該当すれば保険料は給与として扱われる |
| 2 | 保険期間3年以上・最高解約返戻率50%超か。50%以下なら全額損金 |
| 3 | 最高解約返戻率70%以下かつ1被保険者の年換算保険料30万円以下(通算)か。該当すれば全額損金 |
| 4 | 上記以外は返戻率区分で資産計上。50%超70%以下は40%資産、70%超85%以下は60%資産、85%超は保険料×返戻率×90%(11年目以降70%) |
| 判定 | 資産計上分は保険期間の後半(75%経過後等)に均等取崩しで損金化。解約返戻金は受取時に益金。出口の損金と相殺できるか必ず確認 |
想定Q&A
Q1. 法人保険で節税できるというのは本当ですか?
正確には「節税」ではなく「課税の繰延べ」です。保険料を損金算入すれば当期の税負担は減りますが、解約返戻金を受け取る年度にはその返戻金が益金となって課税されます。税額そのものが消えるわけではありません。効果が出るのは、返戻金を受け取る年度に役員退職金などの損金を計上し、益金と相殺できる場合です。出口で相殺できる損金がなければ、繰り延べた税が解約時にそのまま課税されます。保険は保障を主目的に、税の取扱いを踏まえて検討するのが適切です。
Q2. 令和元年の改正で何が変わりましたか?
最高解約返戻率に応じて、保険料の一部を資産計上させ、損金算入を制限する取扱いが導入されました(法基通9-3-5の2)。改正前は定期保険の保険料を全額損金にできるものが多かったのですが、改正後は、返戻率が50%超なら区分に応じて40%〜大部分を資産計上します。解約返戻率が高い(貯蓄性が高い)保険ほど損金にできる割合が小さくなり、「高返戻率で全額損金」という節税保険の使い方はできなくなりました。この改正は令和元年7月8日以後の契約に適用されます。
Q3. 改正前に契約した保険はどうなりますか?
改正前の契約には、従来の取扱いがそのまま適用されます。法基通9-3-5の2は令和元年7月8日以後の契約に適用されるため、それより前に契約した定期保険等は、契約時のルール(長期平準定期保険の2分の1損金など、当時の通達)で処理を続けます。遡って新ルールが適用されることはありません。ただし、契約内容を変更した場合は、変更以後の期間について変更後の内容で新ルールを適用することになるため、既契約の条件変更には注意が必要です。
Q4. 全額損金にできる保険はありますか?
あります。最高解約返戻率が50%以下の定期保険は全額損金です。また、最高解約返戻率70%以下で、かつ1被保険者あたりの年換算保険料相当額が30万円以下(同一被保険者の複数契約は通算)の定期保険・第三分野保険も全額損金にできます。従業員向けの少額な医療保険やがん保険は、この特例に収まることが多いです。ただし、掛け捨てに近い保険は解約返戻金も少ないため、貯蓄性を期待する使い方はできません。全額損金かどうかと、返戻金の多寡はトレードオフの関係にあります。
Q5. 資産計上した保険料はいつ損金になりますか?
保険期間の後半に取り崩して損金にします。50%超85%以下の区分では、保険期間の75%が経過した後から保険期間終了まで、資産計上した前払保険料の累計を均等に取り崩して損金算入します。85%超の区分では、解約返戻金が最高額となる期間を経過した後から取り崩します。したがって、保険期間を通算すれば、支払った保険料はいずれ全額が損金になります。区分によって損金にするタイミングが後ろにずれるだけで、総額が損金にならないわけではありません。
Q6. 養老保険のハーフタックスプランとは何ですか?
養老保険で、契約者を法人、被保険者を全従業員、死亡保険金の受取人を従業員の遺族、満期保険金の受取人を法人とすることで、保険料の2分の1を福利厚生費として損金算入できるプランです。残り2分の1は保険積立金として資産計上します。定期保険の返戻率区分とは別枠の取扱いで、改正後も維持されています。要件は、特定の役員だけでなく従業員全員を対象とする普遍的加入です。特定の者に偏ると福利厚生の普遍性が否定され、給与として扱われるおそれがあるため、加入対象の設計に注意が必要です。
Q7. 保険で役員退職金を準備するのは有効ですか?
出口戦略として理にかなった使い方です。保険料の一部を損金にしながら解約返戻金を積み立て、役員が退職する時期に解約して、その返戻金(益金)を役員退職金(損金)で相殺すれば、益金と損金が打ち消し合い、繰り延べた税負担を退職金の支払に充てられます。返戻率のピーク時期と役員の退職予定時期を合わせることがポイントです。ただし、役員退職金にも不相当に高額な部分は損金不算入となる制限があるため、退職金の適正額の範囲で設計することが前提になります。役員退職金の適正額の考え方は役員退職金の損金算入限度額(功績倍率法)で解説しています。
Q8. 名義変更プランは今も使えますか?
現在は節税効果がほぼ封じられています。かつては低解約返戻金型の保険に法人で加入し、返戻率が低いうちに個人へ名義変更して、その後に個人で高い返戻金を受け取る手法がありました。しかし令和3年に所得税基本通達36-37が改正され、名義変更時の解約返戻金が資産計上額の70%未満の場合は、解約返戻金ではなく資産計上額で評価することとされました。これにより、低い返戻金額での名義変更による所得移転はできなくなりました。この手法を前提とした保険提案には注意が必要です。
Q9. 支払った保険料に消費税はかかりますか?
生命保険料は消費税の非課税取引です。したがって、支払った保険料は仕入税額控除の対象になりません。法人税の損金算入・資産計上の処理とは別に、消費税の課税区分は非課税として扱う点に注意してください。会計ソフトで保険料に自動的に課税区分が付く場合は、非課税に修正が必要です。なお、解約返戻金の受取りも消費税の課税対象外です。保険関係の取引は消費税では課税されないと押さえておくとよいでしょう。
Q10. 解約のタイミングはいつがよいですか?
解約返戻率がピークとなる時期と、大きな損金が発生する時期を合わせるのが基本です。解約返戻金は益金になるので、返戻率が最も高い時期に解約し、その年度に役員退職金など相殺できる損金を計上すれば、繰延べの効果を最大化できます。逆に、損金の当てがない年度に解約すると、返戻金がそのまま課税所得を押し上げます。多くの法人保険は返戻率がピークを過ぎると急激に下がるため、ピーク時期を把握し、出口(退職金等)の予定と合わせて計画的に解約することが重要です。
まとめ
法人の生命保険による節税は、税額が消えるのではなく課税の繰延べであり、解約返戻金は受取時に益金課税されます。令和元年改正(法基通9-3-5の2)で、定期保険等は最高解約返戻率により損金算入割合が制限され、50%超70%以下は40%、70%超85%以下は60%、85%超は保険料×返戻率×90%(11年目以降70%)を資産計上することになりました。資産計上分は保険期間の後半に取り崩して損金化するため、通算すれば全額が損金になります。最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料30万円以下は全額損金、養老保険のハーフタックスは2分の1損金という取扱いも残っています。効果を得るには、解約返戻金の益金を相殺できる出口(役員退職金など)の設計が不可欠です。
- 法人保険の節税は課税の繰延べ。解約返戻金は受取時に益金課税される
- 令和元年改正(法基通9-3-5の2)で最高解約返戻率により損金算入割合が制限された
- 50%超70%以下は40%資産、70%超85%以下は60%資産、85%超は保険料×返戻率×90%を資産計上
- 70%以下かつ年換算保険料30万円以下は全額損金、養老保険ハーフタックスは2分の1損金
- 効果を得るには解約返戻金の益金を相殺する出口(役員退職金等)の設計が不可欠
※本記事は作成時点の法令・公表資料(法人税基本通達9-3-4〜9-3-5の2・9-3-7の2、所得税基本通達36-37、国税庁タックスアンサーNo.5364・No.5364-2等)に基づく一般的な解説です。返戻率区分・要件や取扱いは改正や個別事情、保険商品により変わる場合があるため、具体的な判断は最新の国税庁公表情報の確認、保険会社の税務案内、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

