青色事業専従者給与とは|要件・届出・相当額と扶養控除との有利不利を解説

所得税

個人事業主が配偶者や親族に支払う給与は、原則として必要経費になりません。家族への給与を経費にできてしまうと、生計を一にする家族の間で所得を自由に分散させ、税負担を意図的に下げられてしまうためです(所得税法56条)。この原則の例外として、青色申告者にだけ認められているのが青色事業専従者給与です(所得税法57条)。

これは、事業を手伝う家族に支払った給与を、一定の要件のもとで全額必要経費にできる制度で、個人事業主の節税策として非常に効果が大きいものです。ただし、要件を満たさなければ経費として認められず、扶養控除との関係で「かえって損をする」ケースもあります。本記事では、青色事業専従者給与の要件を条文に沿って判断軸に分解し、労務の対価の相当性、扶養控除との有利不利、白色申告の事業専従者控除との違いまで、実務目線で解説します。

この記事のポイント
  • 家族への給与は原則必要経費にならない(所法56条)が、青色申告者は例外として全額経費にできる(所法57条)
  • 要件は「生計一の親族・15歳以上・6か月超の専従・届出・労務対価として相当」の5つ
  • 届出書の提出期限は原則その年の3月15日(開業・新設は開始から2か月以内)
  • 専従者給与を取ると、その家族は配偶者控除・扶養控除の対象から外れる(重複不可)
  • 白色申告は定額の事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円)のみで、青色が有利

家族への給与が原則経費にならない理由

所得税法56条は、事業主と生計を一にする配偶者やその他の親族が、その事業に従事したことなどにより対価の支払を受ける場合、その対価は事業主の必要経費に算入しない、と定めています。これは、家族間で給与を付け替えることによる恣意的な所得分散を防ぐための規定です。

仮に家族への給与を自由に経費にできると、所得税の超過累進税率のもとでは、事業主一人に集中する所得を家族に分散させることで、世帯全体の税負担を大きく圧縮できてしまいます。これを認めないのが原則で、その例外として、帳簿要件を備えた青色申告者にのみ、届出と実態を条件に必要経費算入を認めたのが所得税法57条の青色事業専従者給与です。つまり、この制度は「例外的に所得分散を認める代わりに、届出と相当性で歯止めをかける」構造になっています。

この制度趣旨を理解しておくと、後述の要件(届出・専従・相当性)がなぜ厳格なのかが腑に落ちます。いずれも「恣意的な所得分散ではなく、実際の労務に見合った対価である」ことを担保するための条件です。要件を形式的に満たすだけでなく、実態が伴っているかが常に問われます。

青色事業専従者給与の5要件

青色事業専従者給与を必要経費にするための要件を、判断軸に分解すると次のとおりです(所得税法57条、所得税法施行令164条)。すべてを満たす必要があります。

要件 内容
1 生計一の親族 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
2 15歳以上 その年の12月31日現在で15歳以上であること(年少者の形式的な専従者化を防ぐ)
3 6か月超の専従 その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合は従事可能期間の2分の1超)、専らその事業に従事していること
4 届出 「青色事業専従者給与に関する届出書」を期限までに提出し、その方法・範囲内で支払うこと
5 労務対価の相当性 給与の額が労務の対価として相当であること(過大部分は必要経費不算入)

このうち、実務で判断が難しく、税務調査で問題になりやすいのが、軸3の「専ら従事」と軸5の「労務対価の相当性」です。この2つを次の見出しで掘り下げます。

「専ら従事」の判定

要件の中心が「専らその事業に従事している」ことです。原則として、その年を通じて6か月を超える期間、事業に専念していることが必要です(所得税法施行令165条1項)。ここでいう「専ら」は、他の仕事や学業の片手間ではなく、その事業に相当程度専念していることを意味します。

したがって、次のような人は原則として専従者に該当しません。ただし例外もあるため、表で整理します。

状況 専従者への該当
他に本業(会社勤めなど)がある 原則として該当しない(その事業に専念していないため)
学生(高校・大学等に通学) 原則として該当しない。ただし夜間学生で昼間従事など、専従を妨げないと認められる場合は例外的に可
年の中途で開業・結婚等により従事を開始 従事できる期間の2分の1を超えて専従すれば可(所令165条1項2号)
年の中途で就職・退職して事業に従事 退職後に従事した場合、従事可能期間の2分の1超で可(就職・退職は「一定の理由」に含まれる)
他の事業主の専従者を兼ねる 該当しない(専従は1つの事業にのみ)

落とし穴:パート勤務や名ばかり専従者は否認される

配偶者が他社でパート勤務をしながら、事業も少し手伝っている程度では「専ら従事」とは認められません。また、実際にはほとんど事業に関与していないのに、給与だけ支払って経費計上する「名ばかり専従者」は、税務調査で否認される典型例です。専従の実態(勤務日数・時間・担当業務)を、業務日報や勤務記録などで説明できるようにしておくことが重要です。給与の支払記録(振込)も残しておきましょう。

労務の対価として相当な金額とは

専従者給与は、労務の対価として相当な金額でなければならず、過大な部分は必要経費になりません(所得税法57条)。届出書に記載した金額の範囲内であっても、実態に照らして高すぎれば、その超える部分は否認されます。相当性は、次の要素を総合的に見て判断します(所得税法施行令164条)。

判断要素 内容
労務の内容・従事度合い 職務の内容、勤務時間、責任の重さ、繁閑への対応など
他の使用人との比較 その事業に従事する他の使用人(従業員)の給与水準との均衡
同種同規模事業との比較 同業種・同規模の事業で、同様の労務に従事する人の給与水準
事業の規模・収益 その事業の種類・規模、収益の状況に照らして妥当か

実務では、同じ仕事を第三者にしてもらったらいくら払うか、という視点が目安になります。専従者が事業の中心的な役割を担い、長時間従事しているなら相応の金額が認められますが、軽微な補助的作業しかしていないのに高額な給与を設定すると、相当性を否定されます。届出額を上限いっぱいに設定しておき、実際の支給は実態に合わせる、という運用が安全です。

配偶者への給与を月8万円程度に抑える例がよく見られますが、これは「相当額だから8万円」なのではなく、源泉徴収や配偶者の税・社会保険の負担を踏まえた結果にすぎません。労務の実態が伴えば、それ以上の金額も当然に認められます。逆に、実態がないのに金額だけ大きくすれば否認されます。金額ありきではなく、労務の実態から金額を決めるのが本来の考え方です。

届出書の提出と手続き

青色事業専従者給与を経費にするには、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、納税地の所轄税務署長に提出しておく必要があります。この提出期限が、実務で最もつまずきやすいポイントです。

届出書の提出期限

原則:必要経費に算入しようとする年の3月15日まで。
例外:その年の1月16日以後に新たに開業した場合や、新たに専従者がいることとなった場合は、その開業日や専従者がいることとなった日から2か月以内

届出書には、専従者の氏名・続柄・職務の内容・給与の金額・支給期などを記載します。ここに記載した方法と金額の範囲内で支払うことが要件なので、届出額を超えて支給した部分は必要経費になりません。将来の増額に備えて、届出額はやや高めに設定しておくのが実務上のコツです。専従者が増えたり、給与を増額したりする場合は、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく提出します。

なお、専従者に給与を支払う以上、事業主は源泉徴収義務者となり、給与から源泉所得税を天引きして納付し、年末調整も行う必要があります。専従者給与が月額8万8,000円未満なら源泉徴収額が0円になるため、この金額前後に設定するケースが多いのは、この源泉事務を簡素にする意味もあります。

扶養控除との有利不利

ここが節税を考えるうえで最も重要な論点です。専従者給与を支払うと、その家族は事業主の配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の対象から外れます(重複適用は不可)。つまり、専従者給与を取ることと、扶養控除を受けることは、どちらか一方しか選べません。

選択肢 事業主側の効果
専従者給与を支払う 支払った給与の全額(相当額の範囲)が必要経費。ただし配偶者控除38万円・扶養控除等は使えない
扶養控除等を受ける 配偶者控除38万円・扶養控除38万円等を所得控除。ただし専従者給与は経費にできない

判断の目安はシンプルです。専従者給与の年額が、配偶者控除・扶養控除の額(38万円等)を上回るなら、専従者給与を取るほうが有利です。控除額の詳細や令和7年改正後の壁は、配偶者控除と配偶者特別控除で詳しく解説しています。実際に相応の労務があり、年間38万円を超える給与を相当額として支払えるなら、専従者給与のほうが節税効果は大きくなります。逆に、労務の実態が乏しく少額しか払えないなら、扶養控除を受けたほうが有利なこともあります。

専従者給与を取ると、その給与は専従者本人の給与所得になります。給与所得には給与所得控除(最低55万円)があるため、年間の給与が55万円以下なら専従者本人には所得税がかかりません。また、事業主の所得が高い(高い税率が適用される)ほど、経費化による節税効果が大きくなります。世帯全体で見て、事業主の税率と専従者本人の税率・社会保険負担を踏まえて判断するのがポイントです。

白色申告の事業専従者控除との比較

家族の労働を経費(控除)にする制度は、白色申告にもあります。それが事業専従者控除です。ただし、青色事業専従者給与とは仕組みも金額も大きく異なります。両者を比較します。

項目 青色事業専従者給与 白色の事業専従者控除
金額 相当額の範囲で上限なし(実際に支払った額) 定額。配偶者86万円、その他の親族50万円が上限(所得按分額との低い方)
届出 事前の届出が必要 届出不要(確定申告書に記載)
実際の支払 実際に給与を支払う必要がある 実際の支払は不要(控除として差し引く)
6か月超の専従 必要 必要
扶養控除との重複 不可(どちらか一方) 不可(どちらか一方)

結論として、家族に相応の労務があり、まとまった給与を経費にしたいなら、青色申告に切り替えて青色事業専従者給与を使うほうが有利です。白色の事業専従者控除は定額で頭打ちになるうえ、青色申告特別控除(最大65万円)や純損失の繰越しといった他の青色の特典も受けられません。専従者給与を本格的に活用するなら、青色申告の承認申請とセットで検討するのが定石です。

判断フロー

家族への給与を青色事業専従者給与として経費にできるか、上から順に確認します。

確認内容
1 青色申告の承認を受けているか。白色なら事業専従者控除(定額)のみ。青色なら次へ
2 その家族は生計を一にする配偶者その他の親族で、12月31日現在15歳以上か。該当すれば次へ
3 その年を通じて6か月超(中途からは従事可能期間の1/2超)、専らその事業に従事しているか。他に本業・通学があれば原則不可
4 届出書を期限(原則3月15日、開業等は2か月以内)までに提出しているか
5 届出の方法・範囲内で実際に支払い、その額が労務の対価として相当か。相当なら全額必要経費に算入可
判定 1〜5をすべて満たせば必要経費算入可。ただしその家族は配偶者控除・扶養控除の対象外(重複不可)。控除額と給与額を比べて有利な方を選ぶ

想定Q&A

Q1. 配偶者に給与を払えば全額経費にできますか?

青色申告者で、要件をすべて満たせば、労務の対価として相当な範囲で全額を必要経費にできます。要件は、生計を一にする配偶者であること、12月31日現在15歳以上、その年6か月超の専従、届出書の提出、相当な金額であることです。ただし、専従者給与を取ると配偶者控除は使えなくなります。反対に、他社でパート勤務している、事業をほとんど手伝っていないといった場合は「専ら従事」に当たらず、経費として認められません。

Q2. 届出を出し忘れました。今年分を経費にできますか?

できません。青色事業専従者給与は、その年の3月15日(開業等の場合は開始から2か月以内)までに届出書を提出していることが要件です。期限までに届出がなければ、その年に実際に給与を支払っていても必要経費にできません。届出は事前手続きであり、後から遡って適用することはできない点が、この制度の厳しいところです。翌年分から適用したい場合は、翌年3月15日までに届出を提出します。

Q3. 大学生の子どもを専従者にできますか?

原則としてできません。学生は学業が本分であり、「専ら事業に従事している」とは認められないためです。ただし例外もあり、たとえば夜間の学校に通いながら昼間はフルタイムで事業に従事しているなど、通学が専従を妨げないと認められる場合には、専従者となる余地があります。昼間の大学に通う子を形式的に専従者にして高額な給与を払うと、税務調査で否認されるリスクが高いので注意が必要です。

Q4. 年の途中で開業しました。6か月に足りませんが使えますか?

使える場合があります。年の中途で開業した場合など、その年に事業に従事できる期間自体が1年に満たないときは、6か月ではなく「従事することができる期間の2分の1を超える期間」専従していれば要件を満たします(所得税法施行令165条1項2号)。たとえば9月開業なら、9月から12月までの従事可能期間の半分を超えて専従すればよいことになります。この場合、届出書は開業日から2か月以内に提出します。

Q5. 給与はいくらに設定すればよいですか?

労務の実態に見合った金額にするのが原則です。職務の内容、勤務時間、他の従業員や同業同規模事業の給与水準に照らして相当な額であれば、金額の上限はありません。ただし、実態が伴わない高額な給与は過大として否認されます。実務では、源泉徴収が発生しない月額8万8,000円未満に抑える例が多いですが、これはあくまで事務の簡素化の観点であり、相応の労務があればそれ以上の金額も認められます。届出額はやや高めに設定し、実支給を実態に合わせるのが安全です。

Q6. 専従者給与と配偶者控除は両方使えますか?

両方は使えません。専従者給与の支払を受ける人は、事業主の同一生計配偶者や扶養親族になれないため、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除とは重複できません。どちらか一方を選ぶことになります。判断の目安は、専従者給与の年額が控除額(配偶者控除38万円など)を上回るかどうかです。相応の労務があり38万円を超える給与を相当額として払えるなら、専従者給与のほうが有利です。少額しか払えないなら控除を選ぶほうが有利なこともあります。

Q7. 専従者給与から源泉徴収は必要ですか?

必要です。専従者に給与を支払う事業主は源泉徴収義務者となり、給与から源泉所得税を天引きして納付し、年末調整も行います。ただし、給与が月額8万8,000円未満で、扶養控除等申告書を提出している場合は、源泉徴収税額が0円になります。このため、源泉事務を簡素にする目的で、月8万円台に設定するケースが多く見られます。金額を高くする場合は、源泉徴収と納付、年末調整の手間が発生する点も考慮しましょう。

Q8. 不動産賃貸をしています。専従者給与を使えますか?

不動産所得の場合、その不動産の貸付けが「事業として行われている」規模でなければ、青色事業専従者給与は使えません。事業的規模の目安は、独立した貸家なら概ね5棟以上、アパート等の室数なら概ね10室以上(いわゆる5棟10室基準)です。この規模に満たない不動産賃貸では、専従者給与も白色の事業専従者控除も適用できません。まず自分の不動産貸付けが事業的規模に当たるかを確認することが出発点になります。

Q9. 白色から青色に変えるべきですか?

家族に相応の労務があるなら、青色に変えるメリットは大きいです。白色の事業専従者控除は配偶者86万円・その他50万円で頭打ちですが、青色事業専従者給与なら相当額の範囲で上限なく経費にできます。加えて、青色申告特別控除(最大65万円)や純損失の3年繰越しなど、青色の特典も受けられます。青色申告の承認申請書は、原則としてその年の3月15日まで(開業の場合は開業から2か月以内)に提出します。専従者給与の届出とあわせて手続きするとよいでしょう。

Q10. 専従者給与を実際には払わず、未払でも経費にできますか?

できません。青色事業専従者給与は、届出書に記載した方法により「実際に支払われた」ものであることが要件です。帳簿上で未払計上するだけで実際の支払がなければ、必要経費として認められません。生計を一にする家族間では、現実に金銭の移動があったかが厳しく見られます。専従者名義の口座へ振り込むなど、支払の事実を客観的に残しておくことが重要です。白色の事業専従者控除は実際の支払が不要ですが、青色の専従者給与は実支払が必須である点が違います。

まとめ

青色事業専従者給与は、家族への給与を必要経費にできる、個人事業主の代表的な節税策です。家族への給与を原則経費にできない所得税法56条の例外として、青色申告者にだけ認められた制度で、生計一の親族・15歳以上・6か月超の専従・届出・労務対価としての相当性という5要件を満たす必要があります。とくに、届出書の期限(原則3月15日)、専ら従事の実態、金額の相当性が実務のポイントです。専従者給与を取ると配偶者控除・扶養控除とは重複できないため、給与額と控除額を比べて有利な方を選びます。家族に相応の労務があるなら、白色の定額の事業専従者控除より、青色に切り替えて専従者給与を活用するほうが有利です。

この記事のまとめ
  • 家族への給与は原則経費不算入(所法56条)だが、青色申告者は例外として全額経費にできる(所法57条)
  • 要件は生計一の親族・15歳以上・6か月超の専従・届出・労務対価としての相当性の5つ
  • 届出書の期限は原則3月15日(開業・新設は開始から2か月以内)。事前手続きで遡及不可
  • 専従者給与と配偶者控除・扶養控除は重複不可。給与額と控除額を比べて有利な方を選ぶ
  • 白色の事業専従者控除は定額(配偶者86万・その他50万)で頭打ち。青色のほうが有利

※本記事は作成時点の法令・公表資料(所得税法56条・57条、所得税法施行令164条・165条、所得税法施行規則36条の4、国税庁タックスアンサーNo.2075等)に基づく一般的な解説です。要件や取扱いは改正や個別事情により変わる場合があるため、具体的な判断は最新の国税庁公表情報の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

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