外形標準課税は、ひとことで言うと「資本金の大きな法人について、もうけ(所得)だけでなく、給与の支払額や事業規模などの外形的な基準でも法人事業税を課す仕組み」です。所得が赤字でも、給与の支払いや資本金があれば一定の税負担が生じるという点が、通常の法人事業税との大きな違いです。
外形標準課税の対象になるかどうかの判定は、令和6年度税制改正で減資への対応や100%子法人等への対応が加わり、複雑になりました。この記事では、対象判定の話は当サイトの別記事に譲り、対象になった法人がどのように税額を計算するのかという「計算方法」に絞って解説します。付加価値割の中身、純支払賃借料における新リース会計基準への対応、借上社宅の取扱い、資本割の無償減資の調整措置など、実務でつまずきやすい論点を厚めに整理します。
- 外形標準課税の税額は、所得割・付加価値割・資本割の3つの合計で計算する
- 付加価値割の計算は、報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料・単年度損益の合計に税率を乗じる
- 純支払賃借料はオペレーティング・リースは含むがファイナンス・リースは含まない(令和7年度改正で明確化)
- 借上社宅は、家主への賃借料は支払賃借料に含めるが、敷金・礼金は含めず、従業員から受け取る社宅料は受取賃借料となる
- 資本割は資本金等の額に税率を乗じるが、無償減資の調整措置は減資から1年以内の欠損填補に限られる
- 東京都など8都府県では標準税率より高い超過税率が適用される
外形標準課税の全体像(3つの課税標準)
外形標準課税の対象法人の法人事業税は、次の3つの課税標準を合算して計算します。所得割は通常の所得課税法人と同じく所得をベースとしますが、付加価値割と資本割が外形標準課税ならではの部分です。
| 課税標準 | 課税ベース |
|---|---|
| 所得割 | 所得金額に応じて課税。外形対象法人は所得割の税率が低めに設定されている |
| 付加価値割 | 付加価値額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益)に応じて課税 |
| 資本割 | 資本金等の額に応じて課税 |
所得が赤字でも、給与の支払いがあれば付加価値割が、資本金等の額があれば資本割が課されるため、赤字法人でも一定の税負担が生じる点が特徴です。なお、自社が外形標準課税の対象かどうかの判定方法(令和6年度改正による減資への対応や100%子法人等への対応を含む)については、当サイトの別記事で詳しく解説しています。
所得割の計算
所得割の課税標準は、法人税の所得計算をベースに地方税法上の所定の調整を加えた所得金額です。外形対象法人の所得割の標準税率(普通法人・電気供給業等を除く)は1.0%です。資本金1億円以下の所得課税法人に適用される軽減税率(所得400万円以下3.5%、400万円超800万円以下5.3%、800万円超7.0%など)と異なり、外形対象法人には所得金額にかかわらず一律の税率が適用されます。これは、所得割の負担が低くなる代わりに付加価値割・資本割を合わせて負担するという制度設計のためです。
付加価値割の計算(基本構造)
付加価値割の課税標準は付加価値額です。付加価値額は次の式で計算します。
最初の3つ(報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料)の合計を「収益配分額」といいます。これに単年度損益を加えたものが付加価値額です。事業の規模を「人件費・支払利子・賃借料」という3つの外形と「もうけ」で表現する考え方です。普通法人の付加価値割の標準税率は1.2%です。
それぞれの中身を順に見ていきます。報酬給与額と純支払賃借料は実務でつまずきやすい論点が多いので、特に厚めに解説します。
報酬給与額の計算と実務注意点
報酬給与額は、給料・賃金・賞与・退職手当・確定給付企業年金の掛金などの合計額です。役員報酬・従業員給与・パート、アルバイトの賃金など、雇用関係にもとづいて支払われるものは原則として含まれます。実務で迷いやすいのは、以下のような場面です。
計上時期は損金算入時期で判定する
報酬給与額は、所得金額の計算上、損金算入される時期に含めます。役員給与で損金不算入となるもの(事前確定届出給与に該当しないもの、過大役員報酬の損金不算入額など)は、損金算入されないため報酬給与額にも含めません。逆に、損金算入される役員報酬は報酬給与額に含めます。
出向者の給与負担金は実質負担者の報酬給与額
親会社などから出向者を受け入れて給与負担金を支払っている場合、その出向者の給与は実質的に給与を負担している側(受入先)の報酬給与額となります。出向元が形式上の支払者であっても、給与負担金として受入先から填補されているのであれば、受入先の報酬給与額に算入します。グループ内出向のある法人では、出向元と出向先のどちらが報酬給与額に算入するか整理が必要です。
退職金は形式的支払者の報酬給与額
退職金については、出向者のケースとは異なり、原則として形式的な支払者(実際に支払った法人)の報酬給与額となります。給与は実質負担者、退職金は形式的支払者という違いがあるため、出向者の退職時には注意が必要です。
通勤手当は所得税の非課税限度額を超える部分が対象
通勤手当は、所得税法上の非課税限度額(電車・バス通勤の場合月額15万円、マイカー通勤の場合は距離別の上限)を超える部分が報酬給与額となります。非課税限度額の範囲内であれば、報酬給与額に含めません。なお、消費税の課税仕入れに該当する通勤手当については、税抜経理の場合は税抜きで集計します。当サイトの通勤手当やマイカー通勤手当に関する記事もあわせてご覧ください。
純支払利子の計算
純支払利子は、支払利子の額から受取利子の額を控除して計算します。マイナスの場合はゼロとします。支払利子・受取利子の範囲は、借入金・社債・手形割引などの利子が中心です。グループ内の借入金利子も含まれます。なお、利子が0であれば付加価値割への影響はありません。
純支払賃借料の計算(新リース会計基準への対応)
純支払賃借料は、土地・家屋の支払賃借料から受取賃借料を控除した額です。動産(機械・車両など)の賃借料は対象外で、あくまで土地・家屋に関する賃借料に限られます。賃借期間が1か月未満の短期の賃借料も対象外です。
この純支払賃借料については、新リース会計基準の適用と関連して、令和7年度税制改正で重要な明確化がなされました。
ファイナンス・リースは含まない/オペレーティング・リースは含む
新リース会計基準(適用対象企業)では、借手の会計処理においてファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引を区別せず、原則すべてのリースについて使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上します。一方、法人税ではファイナンス・リース取引(法人税法上のリース取引)は売買処理、オペレーティング・リース取引は賃貸借処理という区分が維持されています。
外形標準課税では、令和7年度税制改正により、付加価値額の算定における支払賃借料の範囲にファイナンス・リース取引(法人税法上のリース取引)に係る不動産の賃借料は含まれないことが明確化されました(地方税法第72条の17第2項)。オペレーティング・リース取引(賃貸借取引)に係る不動産の賃借料は、引き続き支払賃借料の範囲に含まれます。
| 取引区分 | 支払賃借料に含めるか |
|---|---|
| オペレーティング・リース取引(賃貸借取引)に係る不動産の賃借料 | 含める |
| ファイナンス・リース取引(法人税法上のリース取引)に係る不動産の賃借料 | 含めない |
借上社宅の取扱い(敷金・礼金・更新料は含めない)
福利厚生として導入する企業が増えている借上社宅についても、純支払賃借料の集計で迷いやすい論点があります。借上社宅などの賃貸借契約の締結時に貸手に支払う敷金については、新リース会計基準では使用権資産の取得価額に含めることとされましたが、外形標準課税の付加価値額の算定における「支払賃借料」には、基本的に敷金・礼金・更新料などの権利金その他の一時金は含まれません。
また、企業が社宅の家主(不動産会社等)に支払う賃借料は支払賃借料に含まれる一方で、社宅を貸与している従業員から支払いを受ける賃借料は受取賃借料として処理し、純支払賃借料の計算上は控除します。借上社宅は、家賃を全額会社が立て替えて従業員から一部徴収するという形が多いため、この対応関係を正しく把握する必要があります。
| 区分 | 含まれる | 含まれない |
|---|---|---|
| 支払賃借料 | 家主(不動産会社等)に支払う賃借料 | 敷金・礼金・更新料、1か月未満の賃借料 |
| 受取賃借料 | 従業員から支払いを受ける社宅料・賃借料 | 1か月未満の賃借料 |
インボイス制度との関係
税抜経理を採用している法人がインボイス発行事業者以外(免税事業者等)に支払いを行った場合、原則として控除できない消費税相当額が発生します。この控除できない消費税相当額については、収益配分額(報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料)に含めることとされており、純支払賃借料の集計でも該当箇所では税抜き後の本体価額にこの消費税相当額を加算して計算することになります。なお、インボイス制度の経過措置期間中は仕入税額の80%・50%控除が認められているため、控除できる部分は収益配分額に含めません。
単年度損益
単年度損益は、原則として法人事業税の所得割の課税標準と同額です。繰越欠損金の控除前の金額を使う点が所得割と異なります。単年度損益がマイナス(赤字)の場合は、収益配分額からマイナス分を控除して付加価値額を計算します。これにより、赤字が大きく、人件費等の収益配分額がそれを下回るような場合は、付加価値割はゼロとなります。
雇用安定控除と賃上げ促進税制
付加価値割には、人件費の負担が重い法人の税負担を緩和する仕組みがあります。代表的なのが「雇用安定控除」です。これは、報酬給与額が収益配分額の70%を超える場合に、その超える部分を付加価値額から控除する制度です。労働集約型の業種(小売・飲食・サービス業など)で、給与の比重が高い法人は付加価値割の負担が相対的に重くなるため、その緩和措置として設けられています。
また、賃上げを行った場合の付加価値割の控除制度(賃上げ促進税制の地方税版)もあります。一定の要件を満たす雇用者給与等支給額の増加について、付加価値割の課税標準から控除できる仕組みです。要件・控除額は改正のたびに見直されているため、適用時には最新の規定をご確認ください。
資本割の計算
資本割の課税標準は資本金等の額(法人税法第2条第16号に規定する資本金等の額)です。資本金そのものではなく、資本準備金やその他資本剰余金を含む広い概念である点に注意が必要です。これに普通法人の資本割の標準税率0.5%を乗じて計算します。
なお、平成27年4月1日以後に開始する事業年度については、上記の資本金等の額と、会計上の資本金及び資本準備金の合算額(または出資金の額)とを比較し、いずれか大きい方を課税標準とする調整があります。
無償減資の調整措置(1年以内の欠損填補が必要)
無償減資による欠損填補を行った場合、資本割の課税標準となる資本金等の額から欠損填補に充てた金額を控除する「無償減資の調整措置」が設けられています。資本割の課税ベースを企業再生の場面で軽減することを目的とした規定です。
実務で見落としやすいのが、この調整措置には「1年以内」という期間要件があることです。平成18年5月1日以後に剰余金による欠損填補を行った場合の控除額は、資本金または資本準備金を減少しその他資本剰余金として計上した日から起算して1年以内に欠損填補に充てた金額に限られます。
| 減資から欠損填補までの期間 | 資本金等の額からの控除 |
|---|---|
| 1年以内に欠損填補 | 控除できる |
| 1年を超えて欠損填補 | 控除できない |
無償増資の取扱い
平成22年4月1日以後に、利益準備金またはその他利益剰余金による無償増資を行った場合は、その増資額を資本金等の額に加算します。これは、利益剰余金を資本金に振り替えて資本割を圧縮することへの対応です。
税率(標準税率と超過税率)
普通法人で電気供給業等を除く外形対象法人の標準税率(令和7年4月1日以後開始事業年度)は次のとおりです。これに加えて、法人事業税の税額に対して特別法人事業税(国税)が課されます。
| 課税標準 | 標準税率 |
|---|---|
| 所得割 | 1.0% |
| 付加価値割 | 1.2% |
| 資本割 | 0.5% |
なお、宮城県・東京都・神奈川県・静岡県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県の8都府県では、上記の標準税率より高い超過税率を採用しています。事業所がこれらの団体にある場合、税負担は標準税率を前提とした試算より重くなります。たとえば東京都の外形対象法人の超過税率は所得割1.18%・付加価値割1.26%・資本割0.525%です。本店所在地・事業所所在地の都道府県の税率は必ず確認しましょう。
計算の流れ(実務フロー)
最後に、外形標準課税の対象となった法人が法人事業税を計算する一般的な流れを整理します。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 外形標準課税の対象法人かを判定する(資本金1億円超、減資への対応、100%子法人等への対応のいずれかに該当) |
| 2 | 報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料・単年度損益を集計し、付加価値額を算定(雇用安定控除の適用も検討) |
| 3 | 資本金等の額を算定(無償減資の調整措置・無償増資の加算を反映) |
| 4 | 所得金額(所得割の課税標準)を算定 |
| 5 | 所在地の都道府県の税率(標準または超過)を確認し、所得割・付加価値割・資本割の税額を算定して合計する |
| 6 | 法人事業税額をベースに特別法人事業税(国税)を計算し、申告納付する |
まとめ
外形標準課税の対象法人は、所得割・付加価値割・資本割の3つを合算して法人事業税を計算します。付加価値割の計算は、報酬給与額における出向者・退職金・通勤手当の取扱い、純支払賃借料におけるオペレーティング・リースとファイナンス・リースの区別、新リース会計基準と外形標準課税の集計の違い、借上社宅の家主への支払いと従業員からの徴収の対応関係など、実務でつまずきやすい論点が多くあります。資本割も、無償減資の調整措置の1年以内要件など、会社法上の手続のタイミングが税務上の控除可否に直結する場面があります。自社の状況にあてはめて、収益配分額の各項目と資本金等の額を正確に集計することが重要です。
- 外形標準課税の税額は、所得割(1.0%)・付加価値割(1.2%)・資本割(0.5%)の3つの合計
- 付加価値額=報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益
- 純支払賃借料は、令和7年度改正でオペレーティング・リースは含み、ファイナンス・リースは含まないことが明確化された
- 借上社宅は、家主への賃借料は含めるが敷金等は含めず、従業員からの社宅料は受取賃借料となる
- 資本割の無償減資の調整措置は、減資から1年以内に欠損填補した金額のみ控除可能
- 東京都など8都府県では標準税率より高い超過税率が適用される
本記事は令和8年時点の情報をもとに、地方税法および総務省・東京都主税局・国税庁の公表資料を参照して作成しています。具体的な税額計算にあたっては、最新の法令および各都道府県の取扱い、最新の税率をご確認のうえ、必要に応じて税理士等の専門家にご相談ください。(参照:地方税法第72条の2・第72条の17・第72条の21ほか、総務省「法人事業税における外形標準課税」、東京都主税局「法人事業税に係る外形標準課税」「外形標準課税に関するQ&A」、国税庁「租税公課」)


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