自己株式の取得の税務|みなし配当と源泉徴収の計算を解説

法人税

会社が自社の株式を株主から買い取る「自己株式の取得(自社株買い)」は、事業承継や少数株主の整理の場面で増えています。ところが税務上は、単なる株式の売買では終わりません。買い取った金額のうち一定部分が「みなし配当」として配当扱いになり、会社には源泉徴収の義務が生じます。これを知らずに進めると、源泉徴収もれや株主への説明不足でトラブルになります。

この記事では、非上場会社の自己株式取得を中心に、みなし配当の仕組みと計算方法、源泉徴収、株主側の課税、相続した株式を発行会社に売る場合の特例まで解説します。

この記事のポイント
  • 自己株式の取得では、交付金銭のうち資本金等を超える部分がみなし配当になる
  • 会社はみなし配当部分に源泉徴収(非上場は20.42%)し、翌月10日までに納付
  • 株主側は、みなし配当部分は配当所得、残りは株式の譲渡所得として課税
  • 上場株式の市場での買付けはみなし配当が生じない
  • 相続した非上場株式を発行会社に売る場合は、みなし配当課税されない特例がある

なぜ「みなし配当」が生じるのか

会社が株主に支払うお金は、税務上、出資の払戻し(資本の払戻し)と、利益の分配(配当)に分けて考えます。自己株式の取得で株主に金銭を交付すると、その金額は、株主が出資した部分(資本金等の額に対応する部分)と、会社が稼いだ利益から払い戻す部分(利益積立金額に対応する部分)に分けられます。

このうち、利益から払い戻された部分は、実質的に配当と同じです。そこで法人税法24条は、交付した金銭等のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額を、配当とみなして課税します。これが「みなし配当」です。会社からみると、自己株式の取得は、資本金等の額の減少と利益積立金額の減少に分けて処理されます。

みなし配当の計算方法

みなし配当の額は、おおむね次の式で計算します。

みなし配当 = 交付した金銭等の額 - 取得した株式に対応する資本金等の額

「取得した株式に対応する資本金等の額」は、原則として、その会社の1株あたりの資本金等の額に取得株式数を掛けて求めます。交付した金銭がこの金額を超える部分が、みなし配当になります。

計算例

発行済株式総数1,000株・資本金等の額1,500万円(1株あたり1.5万円)の非上場会社が、株主から150株を800万円で買い取ったとします。

項目 金額
交付した金銭(取得価額) 8,000,000円
対応する資本金等の額(1.5万円×150株) 2,250,000円
みなし配当 5,750,000円

この例では、交付した800万円のうち、資本金等の額に対応する225万円を超える575万円がみなし配当になります。残りの225万円は、株式の譲渡対価(譲渡所得の収入金額)として扱われます。

会社の源泉徴収義務

みなし配当は税務上の配当所得に当たるため、自己株式を取得した会社(支払者)は、みなし配当の額について源泉徴収を行い、原則として支払った月の翌月10日までに納付する義務があります。源泉徴収の税率は、非上場株式の場合20.42%(所得税および復興特別所得税)です。

先ほどの例では、みなし配当575万円に20.42%を掛けた1,174,150円を源泉徴収し、株主への実際の支払額は、800万円からこの源泉税を差し引いた6,825,850円になります。会社は徴収した源泉税を翌月10日までに納付し、配当とみなす金額に関する支払調書なども提出します。源泉徴収を失念すると、会社が納付義務を負うことになるため注意が必要です。

自己株式の取得を「単に株を買い戻すだけ」と考えて源泉徴収を忘れると、後から会社が源泉所得税の納付を求められます。取得を実行する前に、みなし配当の額と源泉税額を必ず試算しておきましょう。

株主側の課税

自己株式の取得に応じて株式を手放した株主側では、受け取った金銭が2つに分かれて課税されます。みなし配当部分は配当所得、資本金等の額に対応する部分は株式の譲渡所得です。

受け取った金銭の区分 株主側の課税
みなし配当部分 配当所得(個人は総合課税・配当控除等)
資本金等に対応する部分 株式の譲渡所得(取得費を差し引いて計算)

個人株主の場合、みなし配当(配当所得)は総合課税の対象となり、所得が大きいほど高い税率がかかります。一方、株式の譲渡所得は申告分離課税です。非上場株式では、みなし配当部分に高い累進税率がかかるため、譲渡所得として課税される場合に比べて税負担が重くなりやすい点が、自己株式取得の悩ましいところです。法人株主の場合は、みなし配当について受取配当等の益金不算入の適用を受けられることがあります。

みなし配当が生じないケース

すべての自己株式取得でみなし配当が生じるわけではありません。上場会社が証券市場で自社株を買い付ける場合は、みなし配当が生じる事由から除かれており、株主側は通常の株式譲渡として扱われます。一方、非上場会社が株主から相対で買い取る場合や、上場会社でも公開買付け(TOB)による取得は、市場での購入ではないため、みなし配当が生じる事由に該当します。

相続した非上場株式を発行会社に売る場合の特例

事業承継や相続で重要なのが、この特例です。相続または遺贈により非上場株式を取得した個人が、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までの間に、その株式を発行会社に譲渡(自己株式として売却)した場合には、みなし配当課税を行わず、交付を受けた金額の全額を株式の譲渡所得の収入金額として扱うことができます(国税庁No.1477)。

通常なら高い累進税率の配当所得になる部分が、この特例によって申告分離の譲渡所得だけで済むため、税負担を大きく抑えられます。相続税の納税資金を、相続した自社株を会社に買い取ってもらって確保するケースで、特に有効です。適用には期限(相続税申告期限の翌日から3年以内)があるため、相続後のスケジュール管理が重要になります。

この特例は、相続した株式を相続税の申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡することが条件です。タイミングを逃すと通常のみなし配当課税に戻るため、相続が発生したら早めに自社株の整理方針を検討しましょう。非上場株式の評価とあわせて、当サイトの関連記事も参考にしてください。

取得価額が時価とずれる場合の注意

自己株式を時価よりも著しく高い金額や低い金額で取得すると、みなし配当・譲渡所得の問題とは別に、時価との差額をめぐって寄附金や受贈益と認定されたり、他の株主への利益移転(贈与など)とみなされたりする論点が生じます。とくに同族会社で、特定の株主から相場と異なる価格で買い取る場合は、株式の時価評価を適切に行う必要があります。非上場株式の時価は財産評価の考え方をもとに算定するため、専門的な検討が欠かせません。

まとめ

非上場会社の自己株式の取得では、交付金銭のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当となり、会社に源泉徴収義務(非上場20.42%)が生じます。株主側はみなし配当部分が配当所得、残りが譲渡所得となり、税負担が重くなりやすい点に注意が必要です。一方、相続した非上場株式を申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡する場合は、みなし配当課税されない特例があり、事業承継・相続の納税資金対策に有効です。時価との乖離による寄附金・受贈益の論点もあるため、実行前に税理士と十分に検討しましょう。

この記事のまとめ
  • みなし配当=交付金銭等-取得株式に対応する資本金等の額
  • 会社はみなし配当に源泉徴収(非上場20.42%)し翌月10日までに納付
  • 株主側はみなし配当が配当所得、残りが株式の譲渡所得
  • 上場株式の市場買付けはみなし配当なし。相対取得・公開買付は該当
  • 相続非上場株式を申告期限後3年以内に発行会社へ譲渡すると、みなし配当課税されない特例(No.1477)

※本記事は作成時点の法令・通達・公表資料(法人税法24条、国税庁タックスアンサーNo.1477等)に基づいています。個別の取扱いは事実関係により異なる場合があるため、具体的な判断は最新の条文・通達の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。

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