少額減価償却資産40万円への改正|要件・仕訳と税務調査の否認リスク

法人税

減価償却は本来、資産の使用期間にわたって費用を配分する制度です。しかし、金額の小さい資産まで1点ずつ耐用年数で管理させると、税務上の正確性から得られる利益より事務負担のほうが大きくなります。少額減価償却資産の特例は、この重要性の原則に基づき、一定額未満の資産について取得年度の一括損金算入を認めることで、中小企業の事務負担を軽減し設備投資を後押しする制度です。

中小企業者等の少額減価償却資産の特例(措法67の5)は、令和8年度税制改正で取得価額の上限が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。物価上昇でパソコンや備品が30万円を超えやすくなった実態に合わせた改正です。ただし、実務でつまずくのは「いくらまで使えるか」よりも、取得価額をどの単位で判定するか、そして税務調査でどこを見られるかです。本体価格は40万円未満でも付随費用を含めると超えてしまう。即時償却したのに償却資産税の申告を忘れる。こうした論点を、条文と国税庁の公表資料に即して法人と個人事業主の両面から整理します。

この記事のポイント
・令和8年4月1日以後の取得分から、取得価額の上限が40万円未満に拡大
・適用法人の従業員数要件は500人以下から400人以下に縮小(特定法人は300人以下)
・年間合計300万円の上限は据え置き。適用期限は令和11年3月末まで3年延長
・中小企業投資促進税制や経営強化税制の器具備品等の取得価額要件も40万円以上へ連動改正
・取得価額と対象法人の判定はいずれも「取得等をする日」の現況で行う
・一体で機能する資産は一括償却資産と同じ物差しで合算して金額判定する(措通67の5-2)
・即時償却しても償却資産税の申告対象。免税点は令和9年度分から180万円に引上げ
  1. 少額減価償却資産の特例とは(措法67の5)
    1. 制度の趣旨と対象資産
  2. 令和8年度改正のポイント(40万円・400人・3年延長)
    1. 年間300万円が据え置かれた理由
    2. 判定は「取得等をする日」。取得価額も対象法人も同じ基準日
    3. 国税庁タックスアンサーが旧基準のままの場合がある
  3. 40万円基準は他の中小企業税制にも波及する
  4. 適用要件(法人・個人事業主の両方)
    1. 法人の場合の要件
    2. 個人事業主・フリーランスの場合の要件
  5. 取得価額の判定でつまずくポイント
    1. (1) 税込経理か税抜経理かで判定額が変わる
    2. (2) 判定単位は「通常1単位として取引される単位」
      1. 条文・通達上の根拠
      2. 合算するもの・しないものの具体例
      3. 判定単位は金額の話であり、取得日を一体化する根拠ではない
    3. (3) 付随費用を含めた金額で判定する
  6. 税務調査で否認されやすいケース
    1. 1: 事業の用に供していない(未稼働)
    2. 2: 取得価額の分割・付随費用の除外
    3. 3: 年間300万円の超過分の処理誤り
    4. 4: 別表16(7)・適用額明細書の添付漏れ
    5. 5: 3月決算以外の法人で新旧基準を混同する
  7. 他の少額資産制度との比較(10万・20万・40万)
    1. 使い分けの考え方と償却資産税の免税点引上げ
  8. 仕訳・申告実務(別表16(7)・償却資産税)
    1. 仕訳例(38万円のパソコンを取得した場合)
    2. 即時償却しても償却資産税の申告は必要
  9. 適用判断フロー
  10. よくある質問
    1. Q1 中古資産やソフトウェアも対象になりますか
    2. Q2 年間300万円はどう数えますか
    3. Q3 30万円台の資産を令和8年3月に買った場合は
    4. Q4 必ず特例を使ったほうが得ですか
    5. Q5 従業員数の判定はいつの時点で行いますか
    6. Q6 従業員が450人の会社は令和8年4月以後どうなりますか
    7. Q7 特定法人とは何ですか
    8. Q8 35万円の工具は経営強化税制と本特例のどちらを使いますか
    9. Q9 別表16(7)の添付を忘れて申告してしまいました
    10. Q10 一体で機能する資産は一括償却資産と同じように合算しますか
    11. Q11 部品を令和8年3月と4月に分けて購入した一体資産はどちらの基準ですか
    12. Q12 償却資産税の免税点が180万円になれば申告は不要ですか
  11. まとめ

少額減価償却資産の特例とは(措法67の5)

少額減価償却資産の特例とは、青色申告を行う中小企業者等が一定額未満の減価償却資産を取得して事業の用に供した場合に、その取得価額の全額を、使用を開始した事業年度の損金(必要経費)に算入できる制度です。正式名称を「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(租税特別措置法67条の5)といい、個人事業主については所得税法上の同趣旨の規定として措置法28条の2が設けられています。

通常、固定資産は法定耐用年数にわたって毎年少しずつ減価償却します。たとえば耐用年数4年のパソコンは本来4年に分けて費用化しますが、この特例を使えば取得した事業年度に全額を一括で損金算入でき、その年度の課税所得を圧縮できます。償却方法の原則については減価償却の定額法と定率法の違いで解説しています。

制度の趣旨と対象資産

この特例は、中小企業の事務負担の軽減と設備投資の促進を目的として平成15年度に創設されました。少額の資産を1点ずつ耐用年数で管理する手間を省き、設備投資をしやすくする狙いがあります。中小企業庁の集計では、この制度の利用の約6割がパソコンの購入によるものとされており、日常的な備品投資を広く支える制度として定着しています。

対象となる資産は幅広く、パソコン・机・工具・機械装置などの有形固定資産だけでなく、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産、さらに中古資産も含まれます。一方で、令和4年4月1日以後に取得するものについては、貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供する資産が対象から除かれます。

ポイントは「事業の用に供したこと」です。取得しただけでは適用できず、実際に使い始めた事業年度が損金算入のタイミングになります。

令和8年度改正のポイント(40万円・400人・3年延長)

令和8年度税制改正により、この特例は次の3点が見直されました。改正内容は財務省「令和8年度税制改正の大綱」および改正後の租税特別措置法に基づきます。

項目 改正前 改正後
1点あたりの取得価額 30万円未満 40万円未満
従業員数要件 500人以下 400人以下
特定法人の従業員数要件 300人以下 300人以下(据置)
年間合計の上限 300万円 300万円(据置)
適用期限 令和8年3月31日 令和11年3月31日

年間300万円が据え置かれた理由

取得価額の上限が引き上げられた一方で、年間合計300万円という上限は据え置かれました。これは、300万円という枠が「30万円の資産10個分」という物価連動の発想ではなく、重要性の原則と政策的観点から設定された独立の限度額だからです。制度創設当初は年間の上限がありませんでしたが、制度を過度に利用する例が生じたため300万円の枠が設けられた経緯があります。したがって、1点あたりの金額が大きくなる分、300万円の枠に早く到達しやすくなる点に注意が必要です。

判定は「取得等をする日」。取得価額も対象法人も同じ基準日

改正後の基準は、令和8年4月1日から令和11年3月31日までの間に取得等をする資産に適用されます。重要なのは、取得価額基準(40万円未満)だけでなく、対象法人の判定(従業員400人以下)も、その資産を取得等する日の現況で行うという点です。事業年度単位ではなく取得日単位で切り替わるため、決算期によっては同じ事業年度のなかに新旧の基準が混在します。

たとえば12月決算法人の令和8年12月期では、令和8年3月までに取得した35万円の資産は旧基準(30万円未満)に当たらず特例の対象外、4月以後に取得した同じ35万円の資産は新基準(40万円未満)で対象、というように取得時期で取扱いが分かれます。3月決算以外の法人ほど誤りやすい論点であり、期をまたぐ設備投資では取得のタイミングを意識すると有利不利が変わります。

取得等の日 取得価額基準 対象法人の従業員数
令和8年3月31日以前 30万円未満 500人以下
令和8年4月1日以後 40万円未満 400人以下

国税庁タックスアンサーが旧基準のままの場合がある

本記事の作成時点では、国税庁のタックスアンサー(No.5408)の本文が改正前の「30万円未満・令和8年3月31日まで・従業員500人以下」の表記のまま更新されていない場合があります。これは解説ページの更新が法令改正に追いついていないためで、制度として有効なのは改正後の租税特別措置法の内容です。一次情報を確認する際は、財務省「令和8年度税制改正の大綱」や改正後の条文・通達、国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」、中小企業庁の案内もあわせて参照してください。

改正論点は施行後しばらく、解説ページと条文で表記が食い違うことがあります。判断に迷う場合は最新の条文・通達、または顧問税理士へご確認ください。

40万円基準は他の中小企業税制にも波及する

見落とされやすいのが、今回の改正が本特例の中だけで完結していない点です。少額減価償却資産の基準額が30万円から40万円に上がったことに伴い、他の中小企業向け設備投資税制で「30万円以上」とされていた取得価額要件も、連動して「40万円以上」に引き上げられています。少額資産の線引きが動けば、その線の反対側にある優遇税制の入口も動くという整理です。

制度 対象資産 取得価額要件
中小企業投資促進税制 工具 30万円以上から40万円以上へ
中小企業経営強化税制 工具及び器具備品 30万円以上から40万円以上へ
特定事業継続力強化設備等の特別償却 器具備品 30万円以上から40万円以上へ

実務上の影響は明確です。たとえば取得価額35万円の工具は、従来なら中小企業経営強化税制の対象になり得ましたが、改正後は取得価額要件を満たさず対象外となる一方、少額減価償却資産の特例で全額を即時償却できます。逆に言えば、35万円から40万円未満の帯にある資産は、優遇税制の選択肢が本特例に一本化されたことになります。各制度の使い分けは中小企業の設備投資税制を比較で整理しています。

適用要件(法人・個人事業主の両方)

この特例を使うには、次の要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると特例は使えず、原則どおり耐用年数による減価償却になります。

法人の場合の要件

要件 内容
青色申告 青色申告書を提出していること
中小企業者等 資本金(出資金)1億円以下で、大規模法人に支配されていないこと等。農業協同組合等も対象
従業員数 常時使用する従業員数が400人以下(特定法人は300人以下)
適用除外事業者でない 前3事業年度の所得金額の平均が年15億円を超える法人は対象外
取得価額 1点あたり40万円未満(令和8年4月1日以後取得)
年間合計 特例を適用する取得価額の合計が事業年度で300万円まで
手続 損金経理のうえ別表16(7)を添付し、適用額明細書を提出すること

「常時使用する従業員」には、常用か日々雇い入れるかを問わず事務所又は事業所に常時就労している職員・工員等が含まれ、役員は含みません(措通67の5-1の2)。季節的に数か月程度従事する者も人数に含める点に注意が必要です。また、資本金基準は原則として少額減価償却資産を取得等した日および事業供用した日の現況で判定するため、期中に増資して資本金1億円超になっても、その前に取得・供用した資産は特例の対象になり得ます。

なお、本特例の適用資産は、租税特別措置法上の特別償却・税額控除・圧縮記帳とは重複適用できません。中小企業経営強化税制等の対象とする資産については、本特例の対象から除かれる調整があります。

個人事業主・フリーランスの場合の要件

個人事業主も、青色申告を行っていれば本特例(措法28条の2)を使えます。要件の考え方は法人とほぼ同じで、青色申告であること、常時使用する従業員数が400人以下(令和8年3月31日までの取得は500人以下)であること、年間合計300万円までであることが基本です。青色申告をしている一般的な個人事業主やフリーランスは、ほとんどが対象になると考えてよいでしょう。手続面では、青色申告決算書の「減価償却費の計算」の摘要欄に「措法28の2」と記載し、明細を別途保管します。青色申告そのものの要件は青色申告特別控除65万円の要件をご覧ください。

白色申告では本特例は使えません。少額資産を一括で経費化したい個人事業主は、青色申告の届出をしているかをまず確認しましょう。

取得価額の判定でつまずくポイント

「40万円未満かどうか」は単純に見えて、実務では判定の仕方でつまずきやすいところです。ここを誤ると、特例を使えると思っていた資産が対象外になり、税務調査で否認されることもあります。

(1) 税込経理か税抜経理かで判定額が変わる

取得価額は、その会社・個人が採用している消費税の経理方式に従って判定します。税込経理方式なら消費税込みの金額で、税抜経理方式なら税抜の金額で40万円未満かを判定します。同じ資産でも、経理方式の違いで特例の使える・使えないが分かれることがあります。

たとえば本体価格38万円(標準税率10%)の備品は、税抜経理なら38万円で40万円未満のため対象、税込経理なら41万8千円で40万円以上のため対象外となります。とくに免税事業者は税込経理が原則となるため、課税事業者に比べて判定上不利になりやすい点を押さえておきましょう。経理方式ごとの有利不利は税抜経理と税込経理の有利不利で詳しく解説しています。

(2) 判定単位は「通常1単位として取引される単位」

取得価額の判定は、その資産が「通常1単位として取引される単位」ごとに行います。ここで重要なのは、この判定単位のルールが本特例に固有のものではなく、10万円未満の少額の減価償却資産、20万円未満の一括償却資産と共通の考え方だという点です。金額基準が10万円・20万円・40万円と異なるだけで、何をひとかたまりとして数えるかという物差しは3つの制度で同じです。

条文・通達上の根拠

まず、10万円未満の少額の減価償却資産は法人税法施行令133条、20万円未満の一括償却資産は同令133条の2に規定があり、この2つの判定単位を定めているのが法人税基本通達7-1-11です。同通達は、10万円未満または20万円未満であるかどうかは通常1単位として取引されるその単位、たとえば機械及び装置については1台または1基ごとに、工具・器具及び備品については1個・1組または1そろいごとに判定し、構築物のうち枕木や電柱等の単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定するとしています。

そして本特例については、租税特別措置法関係通達67の5-2が、法人税基本通達7-1-11と同一の文言で判定単位を定めています。つまり「1個・1組・1そろい」で数えるという物差しは、根拠となる通達こそ別々に置かれていますが、内容は完全に一致しています。したがって、一括償却資産で一体判定が必要な資産は、本特例でも同じように合算して40万円未満かどうかを判定しなければなりません。

制度 金額基準の根拠 判定単位の根拠
少額の減価償却資産 法令133条(10万円未満) 法基通7-1-11
一括償却資産 法令133条の2(20万円未満) 法基通7-1-11
本特例(67の5) 措法67条の5(40万円未満) 措通67の5-2
措通67の5-2は条文上「30万円未満」と書かれていますが、これは改正前の金額基準を指しています。令和8年4月1日以後に取得する資産については40万円未満と読み替えて適用します。

合算するもの・しないものの具体例

国税庁のタックスアンサーNo.5403が挙げる例示は、応接セットとカーテンの2つです。応接セットはテーブルと椅子が1組で取引されるため1組で判定し、テーブル単独と椅子4脚に分けて判定することはできません。カーテンは1枚では機能せず一つの部屋で数枚が組み合わされて機能するため、部屋ごとにその合計額で判定します。この2つの例から読み取れる基準は「取引の慣行として1単位で売買されるか」と「単体で本来の機能を発揮できるか」の2点です。

資産の例 判定単位 理由
応接セット 1組で合算 テーブルと椅子が1組で取引される
カーテン 部屋ごとに合算 1枚では機能せず数枚で機能する
枕木・電柱等の構築物 一の工事等ごと 単体では機能を発揮できない
機械及び装置 1台または1基ごと 通達に例示された単位
単独で機能する事務机 1点ごと 同時に複数購入しても合算不要

「セットで割れば40万円未満になる」と安易に分解して判定すると、税務調査で一体資産として否認されます。逆に、単独で機能する備品を同時に複数購入しただけであれば合算する必要はなく、過度に保守的な合算も誤りです。判断の分かれ目は購入時期や請求書の枚数ではなく、その資産が単体で本来の用途に使えるかどうかです。

判定単位は金額の話であり、取得日を一体化する根拠ではない

実務で混同されやすいのが、1単位判定と取得日の関係です。措通67の5-2が定めているのは、あくまで取得価額をいくらの単位で集計するかという金額の話であり、複数日にわたって取得した部品の取得日を一つに融合させる規定ではありません。一体資産を構成する部品を令和8年3月と4月にまたいで購入した場合に、どの日を取得日として30万円基準と40万円基準のどちらを使うかを正面から定めた通達や質疑応答事例は、確認した限り存在しません。

明文がない領域である以上、実質で判断せざるを得ません。実務上は、価額の大宗を占める主要構成部分をいつ取得したかで判断するのが保守的かつ合理的です。本体を令和8年3月に取得し、少額の付属部品だけを4月以後に購入したという事案で、後者の購入日を捉えて40万円基準に乗せる整理は、実質を離れた基準額の付替えとみられ否認リスクが高くなります。

なお、既に自社で保有している資産の構成部分をそのまま流用して一体資産を組成した場合、その流用部分については新たな支出がないため取得価額に加算しません。加算するのは今回支出した本体価格と付随費用だけです。

(3) 付随費用を含めた金額で判定する

取得価額には、本体価格だけでなく、引取運賃・荷役費・運送保険料・据付費・試運転費など、その資産を事業の用に供するために直接要した費用が含まれます。「本体は38万円だから対象」と判断しても、設置費や送料を加えると40万円以上になり対象外、というケースは珍しくありません。含める費用と含めなくてよい費用の線引きは固定資産の取得価額と付随費用で整理しています。

項目 金額
本体価格 38万円
据付費・送料 3万円
取得価額の合計 41万円(対象外)
見積書・請求書を見るときは「本体価格」だけでなく、付随費用まで含めた合計で40万円未満かを必ず確認しましょう。判定はあくまで取得価額の総額です。

税務調査で否認されやすいケース

少額減価償却資産の特例は適用件数が多い分、税務調査でも論点になりやすい制度です。よくある否認・指摘のパターンを押さえておきましょう。

1: 事業の用に供していない(未稼働)

特例は「事業の用に供した事業年度」に適用します。期末ぎりぎりに取得しただけで実際には使い始めていない資産まで損金算入していると、未稼働として否認される可能性があります。納品書・設置完了の記録など、いつ事業供用したかを示せるようにしておくことが大切です。

2: 取得価額の分割・付随費用の除外

措通67の5-2により、判定は通常1単位として取引される単位ごとに行います。一体で機能する資産を分割して判定したり、据付費・送料などの付随費用を除いて本体だけで40万円未満としていると、一体資産・取得価額総額として否認されることがあります。請求書を分けてもらえば対象になる、という考え方は通用しません。一括償却資産で合算が必要な資産は本特例でも合算が必要である点をセットで覚えておくと誤りを防げます。

3: 年間300万円の超過分の処理誤り

特例を適用できるのは事業年度あたり合計300万円までです。超えた部分は特例の対象外となり、通常の減価償却資産として耐用年数にわたって償却します。取得価額が40万円に近づくほど枠の消化が早くなるため、期中に複数部門で備品を購入する企業では300万円の枠を全社で管理する体制が重要です。なお、事業年度が1年に満たない場合は300万円を月数按分した金額が上限になります。

4: 別表16(7)・適用額明細書の添付漏れ

本特例の適用には、損金経理に加えて、確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」(法人は別表16(7))を添付し、あわせて適用額明細書を提出することが要件とされています。会計処理だけでなく申告書類の添付までがセットで、添付を失念すると形式要件を満たさず適用が認められないおそれがあります(適用額明細書は、添付漏れでも遅滞なく提出すれば認められる取扱いがあります)。

5: 3月決算以外の法人で新旧基準を混同する

改正は事業年度単位ではなく取得等の日で切り替わります。12月決算や9月決算の法人では、同じ事業年度内に30万円基準と40万円基準が併存するため、固定資産台帳の取得日を基準に区分して集計する必要があります。事業年度単位で一律に40万円基準を適用すると誤りになります。

他の少額資産制度との比較(10万・20万・40万)

少額の資産を取得したときの処理方法は、本特例だけではありません。取得価額の水準に応じて大きく3つの制度があり、それぞれ要件と効果が異なるため、使い分けが節税と事務効率の両面で重要です。

制度 取得価額 処理方法 償却資産税 主な対象
少額の減価償却資産 10万円未満 全額損金 対象外 全事業者
一括償却資産 20万円未満 3年均等償却 対象外 全事業者
本特例(67の5) 40万円未満 全額損金 対象 青色の中小企業者等

使い分けの考え方と償却資産税の免税点引上げ

注目したいのは20万円未満の資産です。本特例を使えば即時に全額損金にできて節税効果が大きい一方、償却資産税(固定資産税)の課税対象になります。これに対して一括償却資産を選ぶと、損金化のスピードは劣りますが償却資産税はかかりません。したがって、20万円未満の資産については「今期の所得を圧縮したいなら本特例」「償却資産税を抑えたいなら一括償却資産」という選択が生じます。

なお、償却資産に係る固定資産税の免税点は、令和8年度税制改正で課税標準150万円から180万円に引き上げられました。適用は令和9年度分以後の年度分です。同一市町村内の償却資産の課税標準額が180万円未満であれば課税されないため、保有台数の少ない事業者では本特例を使っても償却資産税が生じない場面が増えます。ただし免税点未満でも申告義務自体はなくならない点に注意してください。償却資産税の仕組みは固定資産税の計算(償却資産含む)で解説しています。

仕訳・申告実務(別表16(7)・償却資産税)

仕訳例(38万円のパソコンを取得した場合)

処理方法はいくつかありますが、いったん資産計上したうえで全額を償却費として費用化する方法が一般的です(税抜経理・取得価額38万円の例)。

借方 貸方
工具器具備品 380,000 現金預金 380,000
減価償却費 380,000 工具器具備品 380,000

取得時に消耗品費等で一括費用処理する方法もありますが、その場合も明細書の添付など特例の要件を満たす必要があります。また、固定資産台帳への記帳は償却資産税の申告のために残しておくのが実務上安全です。

即時償却しても償却資産税の申告は必要

この特例で全額を損金算入した資産であっても、その資産は償却資産税の課税対象になります。法人税・所得税では一括で経費にできても、地方税である償却資産税では別の取扱いになるという点が見落とされがちです。固定資産台帳に計上し、毎年1月1日時点の保有状況を市区町村へ申告することを忘れないようにしましょう。一方、前章のとおり10万円未満の資産や一括償却資産(20万円未満)は償却資産税の対象外です。

適用判断フロー

手順 判定内容
1 青色申告であり、資本金1億円以下等の中小企業者等に該当するかを確認する
2 取得等をする日を確認し、その日の現況で従業員数要件(400人以下または500人以下)を判定する
3 経理方式に応じ、付随費用を含めた総額を1単位ごとに集計して取得価額基準を判定する
4 事業の用に供した日を特定し、供用年度に損金経理する
5 年間300万円の枠内かを確認し、超過分は通常の減価償却へ振り分ける
6 別表16(7)と適用額明細書を添付し、固定資産台帳に載せて償却資産の申告を行う

よくある質問

Q1 中古資産やソフトウェアも対象になりますか

はい。中古資産も、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産も対象です。取得価額が40万円未満で、その他の要件を満たせば適用できます。所有権移転外リース取引で取得したとされる資産も、取得時に売買があったものとして処理すれば対象になります。ただし貸付けの用に供する資産(主要な事業として行われるものを除く)は対象外です。

Q2 年間300万円はどう数えますか

その事業年度に本特例を適用した少額減価償却資産の取得価額の合計額で判定します。たとえば38万円の資産を8点取得すると合計304万円となり、300万円の枠を超える分は特例を使えません。この場合、枠内に収まる7点分の266万円までを特例で処理し、残る1点は通常の減価償却とするのが実務的です。事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割り事業年度の月数を掛けた金額が上限になります(1か月未満の端数は1か月とします)。

Q3 30万円台の資産を令和8年3月に買った場合は

取得日が令和8年3月31日以前であれば旧基準(30万円未満)で判定するため、35万円の資産は特例の対象外です。同じ資産でも令和8年4月1日以後の取得なら40万円未満基準で対象になります。期末前後の取得は、4月以後にずらせるかどうかで結果が変わります。

Q4 必ず特例を使ったほうが得ですか

必ずしもそうとは限りません。赤字(欠損)の事業年度に全額を損金算入しても節税効果は小さく、むしろ翌期以降に償却費を残したほうが有利な場合もあります。また、20万円未満の資産は一括償却資産を選べば償却資産税を抑えられます。所得の状況や保有資産の規模を踏まえて選ぶのが望ましいでしょう。

Q5 従業員数の判定はいつの時点で行いますか

その資産を取得等する日の現況で判定します。事業年度末の人数ではありません。したがって、期中に採用が進んで400人を超えた場合、超える前に取得した資産は特例の対象になり得ます。逆に、期首時点で400人以下でも、取得日に401人であればその資産は対象外です。人数には役員を含めず、パート・アルバイトなど常時就労している者は含めます。

Q6 従業員が450人の会社は令和8年4月以後どうなりますか

令和8年4月1日以後に取得する資産については、従業員数400人超のため本特例を使えません。同年3月31日以前に取得した資産は500人以下の旧要件で判定されるため適用可能です。つまり、取得価額の面では有利になった改正が、従業員数400人台の法人にとっては制度から外れる不利な改正になります。該当する規模の会社は、一括償却資産や通常の減価償却への切替えを前提に固定資産の管理方法を見直す必要があります。

Q7 特定法人とは何ですか

電子情報処理組織による申告(e-Taxによる申告)が義務付けられている法人などをいい、これらの法人については従業員数要件が300人以下とされています。今回の改正でこの300人という水準は変更されていません。自社が電子申告義務化の対象に該当する場合は、400人ではなく300人で判定する点に注意が必要です。

Q8 35万円の工具は経営強化税制と本特例のどちらを使いますか

令和8年4月1日以後の取得であれば本特例です。今回の改正で中小企業経営強化税制の工具及び器具備品の取得価額要件も40万円以上に引き上げられたため、35万円の工具は経営強化税制の対象になりません。一方、本特例では40万円未満として即時償却できます。両制度は重複適用できないため、40万円をまたぐかどうかで使う制度が切り替わると理解しておくと判断が早くなります。

Q9 別表16(7)の添付を忘れて申告してしまいました

明細書の添付は適用要件とされているため、添付がないと特例の適用が認められず、通常の減価償却による申告のやり直しを求められるおそれがあります。気づいた時点で速やかに税務署へ相談し、修正申告や更正の請求を含めて対応を検討してください。なお適用額明細書については、添付漏れがあっても遅滞なく提出すれば認められる取扱いがあります。

Q10 一体で機能する資産は一括償却資産と同じように合算しますか

同じです。一括償却資産の判定単位を定める法人税基本通達7-1-11と、本特例の判定単位を定める措置法関係通達67の5-2は同一の文言で、いずれも通常1単位として取引される単位ごとに判定するとしています。金額基準が20万円と40万円で異なるだけで、何をひとかたまりとして数えるかの物差しは共通です。したがって、一括償却資産で1組として合算すべき応接セットは、本特例でも1組で40万円未満かどうかを判定します。

Q11 部品を令和8年3月と4月に分けて購入した一体資産はどちらの基準ですか

この点を正面から定めた通達等は存在しません。1単位判定は取得価額を集計する範囲を定めるものであって、複数日にわたる取得日を一つにまとめる根拠ではないためです。明文がない以上は実質判断となり、価額の大宗を占める主要構成部分の取得日で判断するのが保守的です。本体を3月に取得していれば30万円基準で判定し、少額の付属部品の購入が4月にずれ込んだことを理由に40万円基準を主張するのは、基準額の付替えとみられ否認リスクが高いと考えるべきです。

Q12 償却資産税の免税点が180万円になれば申告は不要ですか

不要にはなりません。免税点は課税されるかどうかの基準であり、申告義務とは別です。課税標準額が免税点未満であっても、償却資産を保有していれば毎年1月1日時点の状況を市区町村へ申告する必要があります。免税点の引上げ(令和9年度分以後)で納税額がゼロになる事業者は増えますが、申告を省略してよいわけではない点に注意してください。

まとめ

令和8年度改正で取得価額の上限が40万円未満に拡大したことで、これまで対象外だった30万円台の資産も即時償却できるようになりました。物価高で備品単価が上がるなか、活用の幅が広がる改正です。一方で、年間300万円の上限は据え置かれ、従業員数要件はむしろ厳しくなり、判定は取得日単位で切り替わります。使い勝手が良くなった面と、確認すべき論点が増えた面の両方を押さえておく必要があります。

この記事のまとめ
・令和8年4月1日以後の取得分から取得価額の上限が40万円未満に拡大、適用期限は令和11年3月末まで延長
・従業員数要件は400人以下に縮小(特定法人300人以下)。400人台の法人は制度から外れる
・取得価額基準も対象法人の判定も「取得等をする日」の現況で行うため、3月決算以外は新旧基準が併存する
・中小企業投資促進税制や経営強化税制等の器具備品の取得価額要件も40万円以上へ連動改正
・取得価額は税込税抜の経理方式・1単位の判定・付随費用を含めた総額で判定する
・1単位の判定は少額の減価償却資産・一括償却資産と共通の物差しで、一体で機能するものは合算する
・未稼働・分割判定・300万円超過・別表16(7)の添付漏れは税務調査で否認されやすい
・即時償却しても償却資産税は課税対象。免税点は令和9年度分から180万円へ

本記事は令和8年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。出典:租税特別措置法28条の2・67条の5、租税特別措置法施行令27条の12の4・27条の6・28条の5・39条の28、租税特別措置法関係通達67の5-2ほか67の5関係、法人税法施行令133条・133条の2、法人税基本通達7-1-11、国税庁タックスアンサーNo.5403、令和8年度改正法附則65、改正措置法施行令附則、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、国税庁「令和8年度法人税関係法令の改正の概要」、国税庁タックスアンサーNo.5408、中小企業庁の案内、地方税法(償却資産に係る固定資産税の免税点)。個別の適用に当たっては顧問税理士等にご確認ください。

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