少額減価償却資産40万円への改正|要件・仕訳と税務調査の否認リスク

法人税

中小企業者等の少額減価償却資産の特例(措法67の5)は、令和8年度税制改正で取得価額の上限が「30万円未満」から「40万円未満」へと引き上げられました。物価高でパソコンや備品が30万円を超えやすくなった実態に合わせた、使い勝手のよい改正です。

ただ、実務でつまずくのは「いくらまで使えるか」よりも、取得価額をどの単位で判定するか、そして税務調査でどこを見られるかです。本体価格は40万円未満でも、付随費用を含めると超えてしまう。即時償却したのに償却資産税の申告を忘れる——こうした論点を、国税庁・財務省の一次情報をもとに、法人・個人事業主の両方の視点で整理します。

この記事のポイント
  • 令和8年4月1日以後の取得分から、取得価額の上限が40万円未満に拡大
  • 適用法人の従業員数要件は500人以下から400人以下に縮小(特定法人は300人以下)
  • 年間合計300万円の上限と適用要件は据え置き、適用期限は令和11年3月末まで延長
  • 取得価額の判定単位・付随費用・税込/税抜の経理方式が実務の分かれ目
  • 即時償却しても償却資産税(固定資産税)の申告対象になる点に注意

少額減価償却資産の特例とは(措法67の5)

少額減価償却資産の特例とは、青色申告を行う中小企業者等が、一定額未満の減価償却資産を取得して事業の用に供した場合に、その取得価額の全額を、使用を開始した事業年度の損金(必要経費)に算入できる制度です。正式名称を「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(租税特別措置法67条の5)といいます。

通常、固定資産は法定耐用年数にわたって毎年少しずつ減価償却していきます。たとえば耐用年数4年のパソコンを取得した場合、本来は4年に分けて費用化します。しかしこの特例を使えば、取得した事業年度に全額を一括で損金算入できるため、その年度の課税所得を圧縮する効果があります。

制度の趣旨と対象資産

この特例は、中小企業の事務負担の軽減と設備投資の促進を目的として平成15年度に創設されました。少額の資産を1点ずつ耐用年数で管理する手間を省き、設備投資をしやすくする狙いがあります。

対象となる資産は幅広く、パソコン・机・工具・機械装置などの有形固定資産だけでなく、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産、さらに中古資産も含まれます。一方で、貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供する資産は対象外です。

ポイントは「事業の用に供したこと」。取得しただけでは適用できず、実際に使い始めた事業年度が損金算入のタイミングになります。

令和8年度改正のポイント(40万円・400人・3年延長)

令和8年度税制改正により、この特例は次の3点が見直されました。改正内容は財務省「令和8年度税制改正の大綱」および改正後の租税特別措置法に基づきます。

項目 改正前 改正後(令和8年4月1日以後取得)
1点あたりの取得価額 30万円未満 40万円未満
従業員数要件(原則) 常時使用する従業員500人以下 常時使用する従業員400人以下
従業員数要件(特定法人) 300人以下 300人以下(据え置き)
年間合計の上限 300万円 300万円(据え置き)
適用期限 令和8年3月31日まで 令和11年3月31日まで(3年延長)

取得価額の上限が引き上げられた一方で、年間合計300万円という上限は変わっていません。1点あたりの金額が大きくなる分、300万円の枠に早く到達しやすくなる点には注意が必要です。

適用は「取得日」ベース。同じ事業年度でも基準が分かれる

改正後の40万円未満基準は、令和8年4月1日以後に取得する資産から適用されます。判定は「取得日」を基準とするため、決算期によっては同じ事業年度のなかに新旧の基準が混在します。

たとえば12月決算法人の令和8年12月期では、令和8年3月までに取得した35万円の資産は旧基準(30万円未満)に当たらず特例の対象外、4月以後に取得した同じ35万円の資産は新基準(40万円未満)で特例の対象、というように取得時期で取扱いが分かれます。期をまたぐ設備投資では、取得のタイミングを意識すると有利・不利が変わります。

国税庁タックスアンサーが旧基準のままの場合がある

本記事の作成時点では、国税庁のタックスアンサー(No.5408)の本文が改正前の「30万円未満・令和8年3月31日まで・従業員500人以下」の表記のまま更新されていない場合があります。これは解説ページの更新が法令改正に追いついていないためで、制度として有効なのは改正後の租税特別措置法の内容です。一次情報を確認する際は、財務省「令和8年度税制改正の大綱」や改正後の条文・通達もあわせて参照してください。

改正論点は施行後しばらく、解説ページと条文で表記が食い違うことがあります。判断に迷う場合は最新の条文・通達、または顧問税理士へご確認ください。

適用要件(法人・個人事業主の両方)

この特例を使うには、次の要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると特例は使えず、原則どおり耐用年数による減価償却になります。

法人の場合の要件

要件 内容
青色申告 青色申告書を提出していること
中小企業者等 資本金(出資金)1億円以下で、大規模法人に支配されていないこと等。農業協同組合等も対象
従業員数 常時使用する従業員数が400人以下(特定法人は300人以下)
適用除外事業者でない 前3事業年度の所得金額の平均が年15億円を超える法人は対象外
取得価額 1点あたり40万円未満(令和8年4月1日以後取得)
年間合計 特例を適用する取得価額の合計が事業年度で300万円まで

なお、中小企業経営強化法の認定を受け、経営力向上計画に当該設備が記載されているなど、他の優遇税制(中小企業経営強化税制等)の対象とする資産については、本特例の対象から除かれる調整があります。複数の制度を併用する場合は重複適用ができない点に留意してください。

個人事業主・フリーランスの場合の要件

個人事業主も、青色申告を行っていれば本特例を使えます。要件の考え方は法人とほぼ同じで、青色申告であること、常時使用する従業員数が400人以下(令和8年3月31日までの取得は500人以下)であること、年間合計300万円までであることが基本です。青色申告をしている一般的な個人事業主やフリーランスは、ほとんどが対象になると考えてよいでしょう。

白色申告では本特例は使えません。少額資産を一括で経費化したい個人事業主は、青色申告の届出をしているかをまず確認しましょう。

取得価額の判定でつまずくポイント

「40万円未満かどうか」は単純に見えて、実務では判定の仕方でつまずきやすいところです。ここを誤ると、特例を使えると思っていた資産が対象外になり、税務調査で否認されることもあります。

(1) 税込経理か税抜経理かで判定額が変わる

取得価額は、その会社・個人が採用している消費税の経理方式に従って判定します。税込経理方式なら消費税込みの金額で、税抜経理方式なら税抜の金額で40万円未満かを判定します。同じ資産でも、経理方式の違いで特例の使える・使えないが分かれることがあります。

たとえば本体価格38万円(標準税率10%)の備品は、税抜経理なら38万円で40万円未満(対象)、税込経理なら41.8万円で40万円以上(対象外)となります。とくに免税事業者は税込経理が原則となるため、課税事業者に比べて判定上不利になりやすい点を押さえておきましょう。

(2) 判定単位は「通常1単位として取引される単位」

取得価額の判定は、その資産が「通常1単位として取引される単位」ごとに行います。1点ずつ機能する備品は1点ごとに判定できますが、複数のものが一体となって初めて機能する場合は、それらをまとめて1つの資産として判定します。

たとえば、応接セット(テーブルと椅子が一組で機能するもの)は、椅子1脚ごとではなく一組で判定するのが原則です。一方、単独で機能する事務机を複数購入したような場合は、1点ずつ判定できます。「セットで割れば40万円未満になる」と安易に分解して判定すると、税務調査で一体資産として否認されるおそれがあります。

(3) 付随費用を含めた金額で判定する

取得価額には、本体価格だけでなく、引取運賃・荷役費・運送保険料・据付費・試運転費など、その資産を事業の用に供するために直接要した費用が含まれます。「本体は38万円だから対象」と判断しても、設置費や送料を加えると40万円以上になり対象外、というケースは珍しくありません。

項目 金額
本体価格 38万円
据付費・送料 3万円
取得価額の合計 41万円(40万円以上のため対象外)
見積書・請求書を見るときは「本体価格」だけでなく、付随費用まで含めた合計で40万円未満かを必ず確認しましょう。判定はあくまで取得価額の総額です。

税務調査で否認されやすいケース

少額減価償却資産の特例は適用件数が多い分、税務調査でも論点になりやすい制度です。よくある否認・指摘のパターンを押さえておきましょう。

(1) 事業の用に供していない(未稼働)

特例は「事業の用に供した事業年度」に適用します。期末ぎりぎりに取得しただけで、実際には使い始めていない資産まで損金算入していると、未稼働として否認される可能性があります。納品書・設置完了の記録など、いつ事業供用したかを示せるようにしておくことが大切です。

(2) 取得価額の分割・付随費用の除外

前章のとおり、一体で機能する資産を分割して判定したり、据付費・送料などの付随費用を除いて本体だけで40万円未満としていると、一体資産・取得価額総額として否認されることがあります。請求書を分けてもらえば対象になる、という考え方は通用しません。

(3) 年間300万円の超過分の処理誤り

特例を適用できるのは事業年度あたり合計300万円までです。これを超えた部分は特例の対象外となり、通常の減価償却資産として耐用年数にわたって償却します。超過分まで全額損金算入していると否認されます。期中に複数部門で備品を購入する企業では、300万円の枠を全社で管理する体制が重要です。なお、事業年度が1年に満たない場合は、300万円を月数按分した金額が上限になります。

(4) 別表16(7)の添付漏れ

本特例の適用には、損金経理に加えて、確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」(法人は別表16(7))を添付することが要件とされています。会計処理だけでなく申告書類の添付までがセットです。添付を失念すると形式要件を満たさず、適用が認められないおそれがあります。

「損金経理」「明細書の添付」「年300万円以内」「対象資産・対象法人の要件」——このいずれかが欠けると否認リスクが生じます。適用件数が多い資産ほど、要件を機械的にチェックする運用が安全です。

他の少額資産制度との比較(10万円・20万円・40万円)

少額の資産を取得したときの処理方法は、本特例だけではありません。取得価額の水準に応じて、大きく3つの制度があります。それぞれ要件と効果が異なるため、使い分けが節税と事務効率の両面で重要です。

制度 取得価額 処理方法 償却資産税 主な対象
少額の減価償却資産 10万円未満 全額損金(即時) 対象外 すべての事業者
一括償却資産 20万円未満 3年で均等償却 対象外 すべての事業者
本特例(措法67の5) 40万円未満 全額損金(即時) 対象 青色の中小企業者等

使い分けの考え方

注目したいのは、20万円未満の資産です。本特例(40万円未満)を使えば即時に全額損金にできて節税効果が大きい一方、償却資産税の課税対象になります。これに対して一括償却資産(20万円未満を3年均等償却)を選ぶと、損金化のスピードは劣りますが償却資産税はかかりません。

そのため、20万円未満の資産については「今期の所得を圧縮したいなら本特例」「償却資産税を抑えたいなら一括償却資産」という選択が生じます。償却資産が一定額を超えると固定資産税(償却資産税)が課されるため、台数が多い企業ほどこの判断は効いてきます。10万円未満の資産は、原則どおり全額を費用処理すれば償却資産税もかからず、最もシンプルです。

仕訳・申告実務(別表16(7)・償却資産税)

仕訳例(38万円のパソコンを取得した場合)

処理方法はいくつかありますが、いったん資産計上したうえで全額を償却費として費用化する方法が一般的です(税抜経理・取得価額38万円の例)。

借方 貸方
工具器具備品 380,000円 現金預金 380,000円
減価償却費 380,000円 工具器具備品 380,000円

取得時に「消耗品費」等で一括費用処理する方法もありますが、その場合も明細書の添付など特例の要件を満たす必要があります。また、固定資産台帳への記帳は償却資産税の申告のために残しておくのが実務上安全です。

即時償却しても償却資産税の申告は必要

この特例で全額を損金算入した資産であっても、その資産は償却資産税(固定資産税の一種)の課税対象になります。法人税・所得税では一括で経費にできても、地方税である償却資産税では別の取扱いになる、という点が見落とされがちです。固定資産台帳に計上し、市区町村への償却資産の申告も忘れないようにしましょう。一方、前章のとおり10万円未満の資産や一括償却資産(20万円未満)は償却資産税の対象外です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 中古資産やソフトウェアも対象になりますか?

はい。中古資産も、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産も対象になります。取得価額が40万円未満で、その他の要件を満たせば特例を適用できます。

Q2. 年間300万円はどう数えますか?

その事業年度に本特例を適用した少額減価償却資産の取得価額の合計額で判定します。たとえば38万円の資産を8点取得すると合計304万円となり、300万円の枠を超える分は特例を使えません。事業年度が1年に満たない場合は、300万円を12で割り、その事業年度の月数を掛けた金額が上限になります。

Q3. 30万円台の資産を令和8年3月に買った場合は?

取得日が令和8年3月31日以前であれば旧基準(30万円未満)で判定するため、35万円の資産は特例の対象外です。同じ資産でも令和8年4月1日以後の取得なら40万円未満基準で対象になります。期末前後の取得は、4月以後にずらせるかどうかで結果が変わります。

Q4. 必ず特例を使った方が得ですか?

必ずしもそうとは限りません。赤字(欠損)の事業年度に全額を損金算入しても節税効果は小さく、むしろ翌期以降に償却費を残した方が有利な場合もあります。また、20万円未満の資産は一括償却資産を選べば償却資産税を抑えられます。所得の状況や保有資産の規模を踏まえて選ぶのが望ましいでしょう。

まとめ

令和8年度改正で取得価額の上限が40万円未満に拡大したことで、これまで対象外だった30万円台の資産も即時償却できるようになりました。物価高で備品単価が上がるなか、活用の幅が広がる改正です。一方で、年間300万円の上限は据え置かれ、取得価額の判定や償却資産税の取扱いには従来どおり注意が必要です。

この記事のまとめ
  • 令和8年4月1日以後の取得分から取得価額の上限が40万円未満に拡大、適用期限は令和11年3月末まで延長
  • 従業員数要件は400人以下に縮小(特定法人300人以下)。多くの中小企業は影響なし
  • 取得価額は「税込/税抜の経理方式」「1単位の判定」「付随費用」を含めて総額で判定
  • 未稼働・分割判定・300万円超過・別表16(7)の添付漏れは税務調査で否認されやすい
  • 即時償却しても償却資産税は課税対象。20万円未満は一括償却資産との使い分けが有効

※本記事は作成時点の法令・公表資料(財務省「令和8年度税制改正の大綱」、租税特別措置法、国税庁関係資料等)に基づいています。個別の取扱いは事実関係により異なる場合があるため、具体的な判断は最新の条文・通達の確認、または税理士へのご相談をおすすめします。

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