会計では、実際にお金が動いた日ではなく、費用や収益が発生した期間に正しく割り当てて損益を計算します(発生主義)。ところが、家賃や保険料、利息のように「一定の契約に基づき継続してサービスを受ける(提供する)」取引では、支払や入金のタイミングと、サービスが実際に発生した期間がずれることがよくあります。このズレを決算で調整し、その期の損益を正しくするための科目が経過勘定です。
経過勘定は、前払費用・前受収益・未払費用・未収収益の4つです。名前が似ていて混乱しやすいのですが、「費用か収益か」「先払い(先受け)か後払い(後受け)か」の2軸で整理すれば必ず区別できます。この記事では、企業会計原則(注解5)に沿って4つの意味を押さえ、決算整理仕訳と翌期首の再振替仕訳を具体例で示し、前払金など似た科目との違い、前払費用の税務上の扱い(短期前払費用の特例)までを整理します。
- 経過勘定は前払費用・前受収益・未払費用・未収収益の4つ。継続的な役務提供の損益を正しい期間に割り当てるための決算整理科目
- 未払費用・未収収益は「見越し」(発生済み・未決済を当期に計上)、前払費用・前受収益は「繰延べ」(決済済み・未発生を翌期へ繰延)
- いずれも決算で計上し、翌期首に逆仕訳(再振替)で戻すのが原則
- 前払金・前受金・未払金・未収金は、継続的でない一回限りの取引に使う別の科目。混同しない
- 前払費用は原則その期の損金にならないが、短期前払費用の特例で1年以内のものは支払時に損金算入できる場合がある
経過勘定とは
経過勘定は、企業会計原則の損益計算書原則(注解5)に定められた4つの科目です。現金の収支と、その期に計上すべき費用・収益との間に生じたタイミングのズレを調整し、正しい期間損益を計算します。4つは「見越し」と「繰延べ」に分かれます。
| 科目 | 分類 | B/S区分 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 前払費用 | 繰延べ | 資産 | 先払いしたが、まだ提供を受けていない役務の対価。当期費用から除く |
| 前受収益 | 繰延べ | 負債 | 先に受け取ったが、まだ提供していない役務の対価。当期収益から除く |
| 未払費用 | 見越し | 負債 | すでに提供を受けたが、まだ払っていない役務の対価。当期費用に計上 |
| 未収収益 | 見越し | 資産 | すでに提供したが、まだ受け取っていない役務の対価。当期収益に計上 |
「前」が付く2つ(前払費用・前受収益)は、お金の受け払いが先に済んでいて、サービスがこれから(繰延べ)。「未」が付く2つ(未払費用・未収収益)は、サービスは済んでいてお金がこれから(見越し)。あとは費用側(払う)か収益側(受け取る)かで区別します。
前払費用の仕訳
前払費用は、継続して役務の提供を受ける契約で、先払いしたがまだ提供を受けていない分です。当期の費用から除いて資産に計上します。例として、3月決算法人が10月1日に向こう1年分の火災保険料120万円を支払ったケースを見ます(当期分は10〜3月の6か月、翌期分は4〜9月の6か月)。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 支払時(10/1) | 支払保険料 1,200,000 | 現金預金 1,200,000 |
| 決算(3/31) | 前払費用 600,000 | 支払保険料 600,000 |
| 翌期首(4/1 再振替) | 支払保険料 600,000 | 前払費用 600,000 |
前受収益の仕訳
前受収益は、継続して役務を提供する契約で、先に受け取ったがまだ提供していない分です。当期の収益から除いて負債に計上します。例として、10月1日に事務所を貸し、向こう1年分の家賃120万円を前受けしたケースです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 受取時(10/1) | 現金預金 1,200,000 | 受取家賃 1,200,000 |
| 決算(3/31) | 受取家賃 600,000 | 前受収益 600,000 |
| 翌期首(4/1 再振替) | 前受収益 600,000 | 受取家賃 600,000 |
未払費用の仕訳
未払費用は、継続して役務の提供を受ける契約で、すでに提供を受けたがまだ払っていない分です。時の経過で費用は発生しているため、当期の費用に計上し負債に計上します。例として、借入金の利息が後払いで、当期末までに経過した利息のうち未払分が10万円あるケースです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 決算(3/31) | 支払利息 100,000 | 未払費用 100,000 |
| 翌期首(4/1 再振替) | 未払費用 100,000 | 支払利息 100,000 |
未収収益の仕訳
未収収益は、継続して役務を提供する契約で、すでに提供したがまだ受け取っていない分です。時の経過で収益は発生しているため、当期の収益に計上し資産に計上します。例として、貸付金の利息が後払いで、当期末までに経過した利息のうち未収分が10万円あるケースです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 決算(3/31) | 未収収益 100,000 | 受取利息 100,000 |
| 翌期首(4/1 再振替) | 受取利息 100,000 | 未収収益 100,000 |
翌期首の再振替仕訳
経過勘定は、翌期首にいったん逆仕訳で戻す再振替仕訳を行うのが原則です。こうすることで、翌期に実際の支払や入金があったとき、経過勘定を意識せず通常どおり費用・収益に計上でき、二重計上や計上漏れを防げます。上の各表の「翌期首(再振替)」の行がこれに当たります。再振替をしておくと、翌期の帳簿は通常の取引をそのまま記帳するだけで正しい金額に落ち着きます。
前払金・未払金など似た科目との違い
経過勘定と間違えやすいのが、前払金・前受金・未払金・未収(入)金です。決定的な違いは、経過勘定が「一定の契約に基づく継続的な役務提供」で時の経過に応じて発生するのに対し、これらは物品の売買など一回限りの取引で、時の経過とは関係なく使う点です。企業会計原則も、前払費用は前払金と、未払費用は未払金と区別しなければならないと明記しています。
| 経過勘定(継続的役務) | 似た科目(一回限りの取引) | 使い分け |
|---|---|---|
| 前払費用 | 前払金(前渡金) | 家賃・保険料の前払は前払費用、商品仕入の手付金は前払金 |
| 前受収益 | 前受金 | 家賃の前受は前受収益、商品売上の手付金は前受金 |
| 未払費用 | 未払金 | 利息・給料の未払は未払費用、備品購入の未払は未払金 |
| 未収収益 | 未収入金・売掛金 | 利息・家賃の未収は未収収益、商品掛売りは売掛金、固定資産売却の未収は未収入金 |
税務上の注意点
前払費用は、原則としてその期の損金にはなりません。まだ役務の提供を受けていないため、支出時は資産に計上し、役務の提供を受けた期に損金算入するのが原則です。ただし、支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるもので、継続して支払時に損金算入している場合は、支払時点で損金にできる短期前払費用の特例があります。詳しくは短期前払費用の特例で解説しています。
一方、未払費用は、時の経過に応じて発生した費用として損金になりますが、法人税では債務確定基準により、期末までに債務が確定しているかで損金算入の可否を判断します。給料や社会保険料などの未払計上は、確定の判断が実務上のポイントになります。関連する取扱いは未払社会保険料の損金算入時期もあわせて確認してください。
見落としやすい落とし穴
前払金を前払費用として処理してしまう
商品仕入の手付金や物品購入の前渡しは前払金であって、経過勘定の前払費用ではありません。継続的な役務提供でないものを前払費用に入れると、短期前払費用の特例の適用可否など税務判断も誤ります。継続契約か一回限りかで科目を分けます。
再振替を忘れて二重計上・計上漏れになる
翌期首の再振替を忘れると、翌期に実際の支払・入金を通常どおり記帳したときに、経過勘定分と二重に計上されたり、逆に計上漏れになったりします。決算で経過勘定を計上したら、翌期首の再振替をセットで行う運用にします。
本業の売掛金を未収収益にしてしまう
本業の商品・サービスを掛けで販売した未回収額は売掛金であり、未収収益ではありません。未収収益は、利息や家賃のように継続的な役務提供の時の経過で発生した対価に使います。営業債権かどうかで科目を分けます。
前払費用を無条件に支払時の損金にする
前払費用は原則として支払時の損金になりません。短期前払費用の特例は、1年以内・等質等量・継続適用などの要件を満たす場合に限られます。要件を満たさないのに支払時に全額損金算入すると、否認されるおそれがあります。
経過勘定を見分ける判定フロー
| 手順 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 一定の契約に基づく継続的な役務提供か。単発の物品売買等なら前払金・前受金・未払金・未収入金を使う |
| 2 | お金の受け払いは先に済んでいるか。済んでいれば繰延べ(前払費用・前受収益) |
| 3 | お金はこれからで、サービスは済んでいるか。済んでいれば見越し(未払費用・未収収益) |
| 4 | 自分が払う側(費用)か受け取る側(収益)かで、4科目のいずれかに確定する |
| 5 | 決算で計上し、翌期首に再振替。前払費用は短期前払費用の特例の可否も確認する |
想定Q&A(経過勘定)
Q1. 経過勘定はなぜ必要なのですか
その期の損益を正しく計算するためです。発生主義では、費用・収益は発生した期間に割り当てる必要があり、現金の動きとサービスの発生時期のズレを調整しないと利益が正しく出ないからです。反対に、経過勘定で調整しないと、翌期の費用・収益を当期に含めてしまい、利益や税額が正しく計算できません。
Q2. 見越しと繰延べの違いは何ですか
お金が動いたかどうかの向きが逆です。見越し(未払費用・未収収益)はサービスが済んでお金がこれからのもので、発生分を当期に計上します。繰延べ(前払費用・前受収益)はお金が済んでサービスがこれからのもので、未発生分を翌期へ繰り延べます。反対に、両者を取り違えると、当期に計上すべきものを繰り延べたり、その逆をしたりして損益を誤ります。
Q3. 前払費用と前払金はどう違いますか
継続的な役務提供か、一回限りの取引かで分かれます。前払費用は家賃・保険料のように継続的にサービスを受ける契約の先払いで、前払金は商品仕入の手付金など一回限りの取引の先払いだからです。反対に、両者を混同すると、短期前払費用の特例の適用可否など税務判断も誤ります。企業会計原則も両者を区別すべきと定めています。
Q4. 再振替仕訳は必ず必要ですか
原則として行います。翌期首に再振替をしておけば、翌期の実際の支払・入金を通常どおり記帳するだけで正しい金額になり、二重計上や漏れを防げるからです。反対に、再振替をしない方法もありますが、その場合は翌期の記帳時に経過勘定を意識した調整が必要で、ミスの原因になりやすくなります。
Q5. 未収収益と売掛金はどう使い分けますか
本業の営業債権かどうかで分けます。売掛金は本業の商品・サービスを掛けで売った未回収額に使い、未収収益は利息や家賃など継続的役務の時の経過で発生した未回収の対価に使うからです。反対に、固定資産の売却代金の未回収などは未収入金を使います。取引の性質で科目を選びます。
Q6. 前払費用は支払った期に全額経費にできますか
原則できません。前払費用はまだ役務の提供を受けていないため、支出時は資産計上し、提供を受けた期に損金にするのが原則だからです。反対に、支払日から1年以内に提供を受ける等質等量の役務で、継続して支払時に損金算入している場合は、短期前払費用の特例により支払時の損金にできます。要件を満たすかが分かれ目です。
Q7. 未払費用はいつからいつまでの分を計上しますか
費用が発生した日から決算日までの経過分を計上します。時の経過に応じて発生した費用のうち、期末時点で未払いの金額が未払費用だからです。反対に、翌期に属する分は計上しません。例えば利息なら、前回の支払日の翌日から決算日までの経過利息を日割等で計算して計上します。
Q8. 前受収益を計上しないとどうなりますか
当期の利益が過大になります。まだ提供していない役務の対価まで当期の収益に含めてしまい、収益を先取りする形になるからです。反対に、前受収益を計上して当期収益から除けば、実際にサービスを提供する翌期以降に正しく収益計上できます。過大計上は税額にも影響するため、決算で漏れなく調整します。
Q9. 少額でも経過勘定を計上する必要がありますか
重要性の乏しいものは簡便処理が認められる場合があります。金額的にわずかで期間損益への影響が小さいものは、重要性の原則により経過勘定処理を省略して支払時等に費用処理できると考えられているからです。反対に、金額が大きいものや毎期継続して生じるものは、正しい期間損益のために経過勘定で調整すべきです。継続性にも配慮して処理します。
Q10. 長期前払費用とは何が違いますか
費用化までの期間で表示区分が分かれます。前払費用のうち、決算日の翌日から1年以内に費用となるものは流動資産、1年を超えて費用となるものは固定資産の長期前払費用に表示するからです。反対に、長期前払費用には、税法独自の繰延資産(権利金など)が含まれることもあり、経過勘定としての前払費用とは性質が異なる場合があります。中身を確認して区分します。
Q11. 未払費用と未払金はどう区別しますか
継続的な役務提供の経過分かどうかで区別します。未払費用は利息・給料・家賃のように継続的なサービスの時の経過で発生した未払分、未払金は備品購入の代金など一回限りの取引で確定した未払額だからです。反対に、両者を混同すると、経過勘定としての性質や表示を誤ります。企業会計原則も未払費用と未払金を区別すべきと定めています。
まとめ
経過勘定は、前払費用・前受収益・未払費用・未収収益の4つで、継続的な役務提供の損益を正しい期間に割り当てるための決算整理科目です。「前」の2つは繰延べ、「未」の2つは見越しで、費用側か収益側かで科目が決まります。決算で計上したら翌期首に再振替するのが原則です。前払金など一回限りの取引の科目とは区別し、前払費用は原則損金にならないものの短期前払費用の特例がある点も押さえておきましょう。
- 経過勘定は前払費用・前受収益・未払費用・未収収益の4つ(企業会計原則注解5)
- 未払費用・未収収益は見越し、前払費用・前受収益は繰延べ。費用側か収益側かで科目が決まる
- 決算で計上し、翌期首に再振替仕訳で戻すのが原則。二重計上・計上漏れを防ぐ
- 前払金・前受金・未払金・未収入金は一回限りの取引の科目で、経過勘定とは区別する
- 前払費用は原則損金にならないが、短期前払費用の特例で支払時損金にできる場合がある
※本記事は作成時点の会計基準・法令および公表資料(企業会計原則 損益計算書原則一のA・注解5、法人税基本通達2-2-14、国税庁タックスアンサーNo.5380等)に基づく一般的な解説です。仕訳例は理解のための簡略な設例であり、実際の処理は契約内容・金額・重要性等により異なります。個別の判断は最新の基準・法令の確認、または顧問税理士へのご相談をおすすめします。

