給与所得控除とは?令和7年改正後の速算表と計算方法を完全解説|所得税法28条

所得税

給与所得控除は「会社員の必要経費」と説明されることが多いですが、その本質は、実際にかかった経費を一つずつ計算しない代わりに、収入に応じて自動で差し引く概算経費の控除にあります。個人事業主が領収書を集めて実額の経費を計上するのに対し、給与所得者は原則としてこの概算額で経費が処理される仕組みです。そして令和7年度税制改正により、この給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円へ引き上げられ、令和7年分以後の速算表そのものが変わりました。この記事では、改正後の速算表と計算方法、特定支出控除や所得金額調整控除との関係、基礎控除との違いまでを、所得税法28条など一次情報に基づいて整理します。

この記事のポイント

  • 給与所得控除は、給与収入から自動で差し引く概算経費の控除(所得税法28条)
  • 令和7年度改正で最低保障額が55万円から65万円に引き上げられた(令和7年分以後)
  • 改正後は、給与収入190万円以下なら一律65万円、上限は850万円超の195万円
  • 特定支出が給与所得控除額の2分の1を超えると、超えた分を追加控除できる(特定支出控除)
  • 年収850万円超で子育て世帯等に該当すると、所得金額調整控除がさらに適用される

給与所得控除とは(定義と趣旨・所得税法28条)

給与所得控除とは、給与等の収入金額から差し引くことができる、概算経費としての控除です(所得税法28条)。給与所得の金額は「給与等の収入金額 − 給与所得控除額」で計算されます。会社員やパートなど給与をもらう人は、原則として実額の必要経費を計上できない代わりに、この給与所得控除で経費相当額が一律に処理されます。

趣旨は主に3つあるとされます。第一に、勤務に伴う経費の概算控除。第二に、給与所得が事業所得などに比べて把握されやすいことへの調整(捕捉率の格差の調整)。第三に、他の所得との負担調整です。所得全体の中での位置づけは所得税とはもあわせて確認すると整理できます。

令和7年改正後の速算表

令和7年分以後の給与所得控除額は、次の速算表で求めます。改正で最低保障額が65万円に引き上げられ、給与収入190万円以下は一律65万円になりました。

給与等の収入金額 給与所得控除額
190万円以下 65万円
190万円超 360万円以下 収入×30%+8万円
360万円超 660万円以下 収入×20%+44万円
660万円超 850万円以下 収入×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)
660万円超850万円以下の区分でも、660万円以上については国税庁の別の速算表があり、給与所得の金額を直接求められます。表の境目では控除額が連続するよう設計されているため、どの計算式を使っても不整合は生じません。

給与所得の計算方法

給与所得の金額は、次の手順で計算します。控除額はあくまで所得を求める過程で差し引くもので、税額から直接引く税額控除とは異なります。

手順 内容
1 1年間の給与等の収入金額(額面)を把握する
2 速算表で給与所得控除額を求める
3 収入金額から控除額を引いて給与所得の金額を出す
4 該当すれば所得金額調整控除をさらに差し引く

令和7年改正の内容と影響

令和7年度税制改正では、物価上昇などを背景に、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円へ10万円引き上げられました。同時に基礎控除も引き上げられ、両者の底上げによって、本人に所得税がかからない給与収入の上限がおおむね103万円から160万円へと変わっています。

項目 改正前 改正後
給与所得控除の最低保障額 55万円 65万円
一律65万円が適用される収入 162.5万円以下は55万円 190万円以下
適用時期 令和6年分まで 令和7年分以後

この改正は、扶養親族等の所得要件や配偶者特別控除の基準にも波及しています。年末調整での実務対応は年末調整で、扶養や配偶者への影響は配偶者控除と配偶者特別控除で確認できます。

特定支出控除

給与所得者でも、勤務に関連して実際に支出した特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超える場合には、確定申告により、その超える部分を給与所得控除額に上乗せして差し引けます(所得税法57条の2)。実額経費が概算控除を大きく上回る人のための救済措置です。

特定支出の区分 内容
通勤費・旅費 通勤や職務上の出張に通常必要な支出
転居費・帰宅旅費 転勤に伴う転居や単身赴任の帰宅の費用
研修費・資格取得費 職務に必要な研修や資格の取得費用
勤務必要経費 図書費・衣服費・交際費(合計65万円まで)
特定支出控除を受けるには、支出が職務の遂行に直接必要であることについて、給与の支払者(勤務先)の証明が必要です。また、通勤手当など非課税で支給されている部分や、勤務先から補填され所得税が非課税とされている部分は、特定支出には含められません。

通勤に関する費用の非課税の範囲はマイカー通勤手当もあわせて確認すると、特定支出との切り分けが整理できます。

所得金額調整控除

令和2年分から、給与所得控除の上限が195万円に抑えられたことに伴い、負担が重くなりすぎないよう所得金額調整控除が設けられています(租税特別措置法41条の3の3・41条の3の4)。次の2種類があります。

種類 対象 控除額の目安
子ども等がいる場合 年収850万円超で、子や特別障害者等を扶養 最大15万円
年金との併有 給与所得と公的年金等の雑所得の両方がある 最大10万円
子ども等がいる場合の調整控除は「(給与収入 − 850万円)×10%」で計算し、上限は15万円です。共働きでそれぞれが年収850万円を超える場合は、夫婦の双方がこの控除を受けられる点が、配偶者控除などと異なります。

給与所得控除と基礎控除の違い

給与所得控除と基礎控除は混同されがちですが、給与所得控除は給与収入から経費相当を引くもの、基礎控除はすべての納税者の所得から一律で引くもので、性質も適用の場面も異なります。

区分 性質 対象
給与所得控除 給与の概算経費控除 給与所得者のみ
基礎控除 最低生活費への配慮 原則すべての納税者

両者は差し引く順番も異なります。まず給与収入から給与所得控除を引いて給与所得を求め、その後に他の所得と合算し、最後に基礎控除などの所得控除を差し引きます。

年収の壁との関係

いわゆる年収の壁は、給与所得控除と基礎控除の合計で決まる部分が大きいです。改正で給与所得控除の最低保障額が65万円、基礎控除が58万円に引き上げられた結果、両者の合計123万円までは所得税がかからず、さらに特定親族特別控除などとあわせて、本人非課税の上限がおおむね160万円へと動いています。

壁の全体像は年収の壁で、103万・106万・130万・160万の各基準を整理しています。

計算の判断フロー

手順 確認内容
1 年間の給与収入を速算表に当てはめ、給与所得控除額を求める
2 特定支出が控除額の1/2を超えていないか(超えれば追加控除を検討)
3 年収850万円超で子育て等に該当しないか(該当すれば所得金額調整控除)
4 給与所得を確定し、他の所得と合算後に基礎控除等を差し引く

計算例

給与収入が500万円のケースで、令和7年分以後の速算表を使って給与所得を求めます。

項目 金額
給与収入 500万円
給与所得控除(500万×20%+44万) 144万円
給与所得の金額 356万円

給与収入500万円は「360万円超660万円以下」の区分なので、控除額は500万円×20%+44万円=144万円です。給与収入500万円から144万円を引いた356万円が給与所得の金額となり、ここから基礎控除など各種の所得控除を差し引いて課税所得を計算します。

よくある質問(Q&A)

Q1. 給与所得控除は自分で申告するのですか

結論は、自動で適用されます。年末調整や確定申告の計算過程で、収入金額に応じて自動的に差し引かれるためです。反対に、特定支出控除を受ける場合は、自分で確定申告する必要があります。

Q2. 令和7年改正で何が変わりましたか

結論は、最低保障額が55万円から65万円に上がりました。物価上昇等を背景とした引き上げだからです。反対に、850万円超の上限195万円は改正後も変わっていません。

Q3. パートやアルバイトにも給与所得控除はありますか

結論はあります。パートやアルバイトの収入も給与所得だからです。反対に、給与ではなく業務委託の報酬なら事業所得や雑所得となり、給与所得控除ではなく実額の必要経費で計算します。

Q4. 2か所から給与をもらっている場合はどう計算しますか

結論は、合計額で速算表を当てはめます。同一年分の給与は合算して控除額を求めるためです。反対に、勤務先ごとに別々に控除額を計算することはできません。

Q5. 特定支出控除はどんな人が使えますか

結論は、実額の勤務経費が大きい人です。特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超える場合に、超える分を追加控除できるためです。反対に、多くの会社員は概算控除のほうが有利で、実際の利用は限られます。

Q6. 通勤手当は給与所得控除と関係しますか

結論は、非課税分は関係しません。非課税の通勤手当はそもそも収入金額に含まれないためです。反対に、非課税限度を超える通勤手当は給与収入に含まれ、給与所得控除の計算対象になります。

Q7. 所得金額調整控除は誰でも受けられますか

結論は、受けられません。年収850万円超で子や特別障害者等を扶養する場合などに限られるためです。反対に、給与と年金の両方がある人は、要件を満たせば別の類型の調整控除を受けられます。

Q8. 給与所得控除と基礎控除は両方引けますか

結論は両方引けます。性質が異なる別々の控除だからです。反対に、給与所得控除は給与所得者だけ、基礎控除は原則すべての納税者が対象という違いがあります。

Q9. 年収の壁が160万円になったのは給与所得控除のおかげですか

結論は、給与所得控除と基礎控除の両方の引き上げによるものです。両者の合計と関連する控除の見直しで非課税の上限が動いたためです。反対に、社会保険の壁(106万・130万)は税の控除とは別の制度なので、この改正で自動的に変わるわけではありません。

Q10. 給与所得控除に上限はありますか

結論はあります。給与収入が850万円を超えると、控除額は195万円で頭打ちになるためです。反対に、それ以下の収入では収入に応じて控除額が増えていきます。

Q11. 個人事業主に給与所得控除はありますか

結論はありません。事業所得は実額の必要経費で計算するためです。反対に、法人を設立して自分に役員報酬を支払えば、その役員報酬は給与所得となり給与所得控除の対象になります。

Q12. 副業で給与を得た場合も控除されますか

結論は、本業と合算した給与全体に対して控除されます。給与は合計額で控除額を計算するためです。反対に、副業が業務委託の報酬であれば給与所得ではなく、その分には給与所得控除は使えません。

まとめ

給与所得控除のまとめ

  • 給与所得控除は給与収入から自動で差し引く概算経費の控除(所得税法28条)
  • 令和7年分以後は最低保障額65万円。190万円以下は一律65万円、850万円超は195万円で頭打ち
  • 特定支出が給与所得控除額の1/2を超えると、超える分を追加控除できる(所法57条の2)
  • 年収850万円超で子育て等の場合は所得金額調整控除が上乗せされる
  • 給与所得控除と基礎控除は性質が異なり、両方を差し引ける

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出典・参考

本記事は令和8年8月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の適用可否は要件により異なるため、具体的な判断は所轄税務署または税理士にご確認ください。

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