役員報酬の変更はいつまで?定期同額給与「3ヶ月ルール」と改定時期の正しい数え方

法人税

役員報酬の改定の大半は、この「通常改定」で行われます。事業年度の期首から一定期間内であれば、理由を問わず増額も減額もでき、改定後の役員報酬を全額損金算入できる、いわば定例の改定枠です。基本的な制度ではありますが、「3か月以内とは何を起算点にするのか」「決議が3か月以内なら支給反映は4か月目でもよいのか」「期限を過ぎたらどこまで損金不算入になるのか」など、正確に押さえておくべき論点が少なくありません。

この記事では、定期同額給与の通常改定について、法人税法施行令69条・基本通達9-2-12の2・国税庁の質疑応答事例などをもとに、制度趣旨から「3月経過日等」の正確な理解、増減自由ゆえの期首設定の重要性、「同額」の判定、期限を外れた場合の取扱い、新設法人等の特殊ケース、手続、落とし穴、想定Q&A、年間スケジュールまで、深掘りして解説します。

この記事のポイント
  • 通常改定は、期首から一定期間内(原則3か月以内)に行う役員報酬の改定枠
  • 枠内であれば理由を問わず増減でき、改定後の役員報酬を全額損金算入できる
  • 起算点は「決算日」ではなく「期首」。期限内に求められるのは改定(決議)であって支給ではない
  • 「同額」は額面同額でも手取り同額でも可。経済的利益(社宅貸与など)も含む
  • 期限を外した場合、損金不算入となるのは「定期同額でなくなった部分」だけ
  • 期中で自由に動かせない以上、期首の水準設定が実務の勝負どころ
  1. 制度趣旨:なぜ「期首から一定期間内」なのか
  2. 「3月経過日等」を正確に理解する
    1. 起算点は「決算日」ではなく「期首」
    2. 例外的に期限が異なる法人
    3. 「特別の事情」があれば3月経過日等後でもよい場合
    4. 要件は「改定(決議)」の時期、支給反映は別
  3. 増減自由、ただし「期首設定」が勝負
    1. 理由を問わず増額・減額できる
    2. 据え置く(改定しない)のも当然OK
    3. 期首設定こそが最重要
  4. 「同額」の判定、額面か手取りか
  5. 期限を外れた・据え置けなかった場合の損金不算入
  6. 新設法人・特殊ケース
    1. 新設法人
    2. 通常改定と他の改定の併存
    3. グループ会社(親会社参酌)
  7. 手続:決議と議事録
  8. 実務上の落とし穴
    1. 「3か月」の起算点を決算日と取り違える
    2. 決議時期と支給反映時期の混同
    3. 期首設定の失敗
    4. 期中に何度も動かす
    5. 据置でも記録は残す
  9. 想定Q&A集(実務)
    1. Q1. 3月決算です。いつまでに役員報酬を改定すればよいですか
    2. Q2. 6月の総会で増額を決議しましたが、実際に増額した金額を支給するのは7月支給分からです。間に合いますか
    3. Q3. 改定の理由は何でもよいのですか。業績が良いから増やす、でもよいですか
    4. Q4. 今年は前年と同額で据え置きます。決議や議事録は必要ですか
    5. Q5. 期首に決めた役員報酬が高すぎました。9月に下げられますか
    6. Q6. 額面は毎月同じですが、6月から住民税の天引き額が変わり、手取りが変動します。問題ですか
    7. Q7. 会社を設立したばかりです。役員報酬はいつ決めればよいですか
    8. Q8. 親会社の総会後でないと当社の役員報酬が決まらず、期首から3か月を過ぎてしまいます
    9. Q9. 確定申告期限の延長を受けています。改定期限はどうなりますか
    10. Q10. うっかり期首から4か月目に増額してしまいました。役員報酬は全額損金不算入になりますか
  10. 年間スケジュール例(3月決算の場合)
  11. まとめ

制度趣旨:なぜ「期首から一定期間内」なのか

定期同額給与は、事業年度を通じて毎月同額であることが基本です。期の途中で自由に増減できてしまうと、利益が出そうなら増やし、出なさそうなら減らす、という利益調整の道具になりかねません。そこで法人税法は、事業年度の開始時点で1年分の水準を決め、原則としてその年度内は動かさない、という建付けを採っています。

その「決める時期」を区切るのが通常改定です。定時株主総会で翌期の役員報酬を決議し、期首から一定期間内に水準を確定させる、この枠内であれば、増額・減額のいずれも、理由を問わず損金算入が認められます。期中改定の3事由(通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由)のうち、最も基本かつ高頻度に使われるのがこの通常改定です。

「3月経過日等」を正確に理解する

起算点は「決算日」ではなく「期首」

通常改定が認められるのは、法人税法施行令69条1項1号イにより、原則として「その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日(3月経過日等)まで」にされた改定です。

ここで実務上もっとも誤りやすいのが起算点です。「決算日から3か月」ではなく「期首から3か月」です。3月決算(4月1日開始)の会社であれば、期首4月1日から3か月を経過する日、すなわち6月30日までが原則の期限です。多くの会社が6月の定時株主総会で改定するのは、この期限内に収めるためです。

原則の期限 = 事業年度開始の日から3月を経過する日
(3月決算なら4月1日から6月30日まで)

例外的に期限が異なる法人

確定申告書の提出期限の延長特例の適用を受けている法人など、一定の法人については、この「3月経過日等」が原則の3か月とは異なる月数になる場合があります(たとえば、指定に係る月数に2を加えた月数とされるケースなど)。自社が申告期限の延長を受けている場合は、適用される具体的な期限を必ず個別に確認してください。

「特別の事情」があれば3月経過日等後でもよい場合

継続して毎年所定の時期に行っている改定が、特別の事情により3月経過日等の後になる場合には、その改定の時期までに行えば通常改定として認められます(施行令69条1項1号イ括弧書き)。

基本通達9-2-12の2は、この「特別の事情」の例として、子会社の役員給与の額が親会社の役員給与を参酌して決定される常況にあるため、親会社の定時株主総会の終了後でなければ子会社の役員給与の改定決議ができない、といったケースを挙げています。グループ会社で改定時期が後ろ倒しになる場合などが想定されます。

要件は「改定(決議)」の時期、支給反映は別

見落とされがちですが、法令が期限内に求めているのは「定期給与の額の改定(給与改定)を行うこと」であって、「改定後の給与を3か月以内に支給すること」までは要件としていません。したがって、3か月以内に改定の決議を行えば、改定後の金額の支給開始が結果的に4か月目の支給時期からになっても、通常改定として取り扱われ得ると整理されています。

ただし、改定前・改定後の各区間で支給額が同額になっているか(後述)は、別途満たす必要があります。決議日・適用開始の支給時期・各月の支給額を一体で確認し、運用は慎重に行ってください。

増減自由、ただし「期首設定」が勝負

理由を問わず増額・減額できる

通常改定の枠内(期首3か月以内等)であれば、増額・減額のいずれも、理由を問わず行えます。臨時改定事由や業績悪化改定事由のように「やむを得ない事情」を立証する必要はありません。これが通常改定の最大のメリットです。

据え置く(改定しない)のも当然OK

前期と同額で据え置く場合も、もちろん定期同額給与に該当します。毎年必ず増減の改定決議をしなければならないわけではなく、前期の水準を継続する場合は、その水準のまま定期同額給与として扱われます(会社法上の報酬総額の枠など、別途必要な手続は確認してください)。

期首設定こそが最重要

裏を返せば、通常改定の枠を過ぎると、原則として年度内は自由に動かせなくなります。期首に決めた額が高すぎて赤字に陥っても、低すぎて法人税負担が重くなっても、臨時改定事由・業績悪化改定事由に当たらない限り、期中では損金算入できる形で動かせません。

期首の段階で、向こう1年の業績見通しと資金繰りを十分に検討して水準を決めることが、定期同額給与の実務でもっとも重要な作業になります。「とりあえず決めて後で調整」は通用しない、という前提を持っておく必要があります。

「同額」の判定、額面か手取りか

「毎月同額」といったとき、何が同額であればよいのでしょうか。施行令69条2項により、各支給時期における支給額(額面)が同額である場合だけでなく、支給額から源泉徴収される所得税・特別徴収される住民税・社会保険料等の額を控除した後の金額(手取り)が同額である場合も、定期同額給与に該当するとされています。いわゆる「手取り同額方式」です。

実務では額面同額で設計するのが一般的です。額面が同額であれば、年の途中(6月)で住民税の特別徴収額が変わって手取りが上下しても、定期同額給与の判定上は問題ありません。

同額の判定方法 内容
額面同額 各支給時期の支給額が同額。実務で最も一般的
手取り同額 源泉所得税・住民税・社会保険料等を控除後の手取りが同額。施行令69条2項

また、毎月おおむね一定の金額が供与される経済的利益(現物給与)、たとえば社宅の貸与による利益などが毎月ほぼ一定であるものも、定期同額給与に含めて扱われます(施行令69条1項2号)。

期限を外れた・据え置けなかった場合の損金不算入

通常改定の枠を過ぎて期中に増減した場合、その全額が問答無用で否認されるわけではなく、「定期同額でなくなった部分」だけが損金不算入になります。

期限後の改定 損金不算入の範囲
期限後に増額した場合 増額前の支給額が基準。増額した部分(上乗せ分)が損金不算入
期限後に減額した場合 減額後の支給額が基準。減額後の金額を超える部分(本来の高い部分のうち上乗せに相当する部分)が損金不算入

さらに国税庁の質疑応答事例では、期限外の増額改定であっても、改定後の各支給時期の支給額が同額であるときは、「増額前の額に上乗せして支給したものとみることができる」と整理し、増額前の額に相当する部分は引き続き定期同額給与として認め、上乗せ部分(増額分×月数)のみを損金不算入とする考え方が示されています。

期限を外しても、損金不算入は上乗せ部分に限られ、給与全体が否認されるわけではない、という点は押さえておきましょう。とはいえ、上乗せ部分の課税は生じるため、期限内改定が望ましいことに変わりはありません。

新設法人・特殊ケース

新設法人

設立後最初の事業年度については、会計期間開始の日が設立の日となるため、設立の日から3か月を経過する日までに役員給与の額を定めれば、その後同額で支給することで定期同額給与に該当します。設立直後に役員報酬を決めるのはこのためです。

通常改定と他の改定の併存

期首3か月以内に通常改定を行った後、同一年度内に臨時改定事由(昇格・降格・病気等)や業績悪化改定事由が生じれば、それぞれの事由に基づく期中改定が認められ得ます。通常改定をしたから期中はもう一切動かせない、というわけではありません(各区間で同額になっているかの確認は必要です)。

グループ会社(親会社参酌)

前述のとおり、親会社の役員給与を参酌して決定する常況にあり、親会社の総会後でないと決議できない場合は、「特別の事情」として3月経過日等後の改定も通常改定として認められ得ます。

手続:決議と議事録

役員報酬の額は、会社法上、株主総会の決議によって定めることとされています(会社法361条)。通常改定も、株主総会の招集、改定後の金額(または総額)についての普通決議、議事録の作成・保存、という手続を踏みます(取締役会設置会社で個別額の決定を取締役会・代表取締役に委任している場合は、その決議・記録も必要です)。

定時株主総会の場で翌期の役員報酬を決議するのが一般的な流れです。なお、役員報酬の改定は社会保険の標準報酬月額(随時改定・月額変更届)にも影響するため、社会保険手続との連動も確認しておきます。

実務上の落とし穴

「3か月」の起算点を決算日と取り違える

繰り返しになりますが、起算点は決算日ではなく期首です。3月決算なら6月30日までであり、決算日(3月31日)から3か月(6月30日)とたまたま一致しますが、考え方が違います。たとえば12月決算なら、起算点は1月1日で、期限は3月31日までです。

決議時期と支給反映時期の混同

期限内に求められるのは「改定(決議)」であって支給ではありませんが、改定前・改定後の各区間が同額かどうかの判定は支給時期ベースで行われます。設計を誤ると同額性を欠くおそれがあるため、決議日・適用開始の支給時期・各月の支給額を一体で確認します。

期首設定の失敗

もっとも多い実務上の失敗は、期首に高すぎる・低すぎる金額を設定し、期中で動かせずに苦しむケースです。1年の見通しを踏まえて慎重に決めましょう。

期中に何度も動かす

通常改定は基本的に年1回の枠です。期中に繰り返し金額を動かすと、定期同額給与の同額性を欠き、損金不算入を招きます。

据置でも記録は残す

据え置く場合でも、会社法上の手続や記録の整備は意識しておきます。後日、税務調査などで根拠を問われることがあるためです。

想定Q&A集(実務)

Q1. 3月決算です。いつまでに役員報酬を改定すればよいですか

期首(4月1日)から3か月を経過する日、すなわち6月30日までに改定(決議)を行えば、原則として通常改定に該当します。多くの会社が6月の定時株主総会で改定するのはこのためです。

Q2. 6月の総会で増額を決議しましたが、実際に増額した金額を支給するのは7月支給分からです。間に合いますか

期限内に求められるのは「改定(決議)」を行うことであり、改定後の給与を3か月以内に支給することまでは要件とされていません。したがって、改定後の支給開始が7月支給分からでも通常改定として取り扱われ得ます。ただし、改定前(4〜6月)と改定後(7月以降)の各区間でそれぞれ支給額が同額であることは必要です。

Q3. 改定の理由は何でもよいのですか。業績が良いから増やす、でもよいですか

通常改定の枠内であれば、理由を問わず増額・減額できます。臨時改定事由や業績悪化改定事由のような「やむを得ない事情」の立証は不要です。

Q4. 今年は前年と同額で据え置きます。決議や議事録は必要ですか

前年と同額で継続する場合も定期同額給与に該当します。税務上、毎年必ず増減の改定決議をしなければならないわけではありませんが、会社法上の手続や記録の整備は別途確認してください。

Q5. 期首に決めた役員報酬が高すぎました。9月に下げられますか

通常改定の枠を過ぎているため、原則として期中の減額は定期同額給与の例外にはなりません。減額後の金額を超える部分が損金不算入となります。臨時改定事由(地位・職務の変動)や業績悪化改定事由に当たる事情があるかを別途検討することになります。

Q6. 額面は毎月同じですが、6月から住民税の天引き額が変わり、手取りが変動します。問題ですか

額面(支給額)が同額であれば、定期同額給与の判定上は問題ありません。源泉所得税・住民税・社会保険料等を控除した後の手取りが変動しても差し支えありません。

Q7. 会社を設立したばかりです。役員報酬はいつ決めればよいですか

設立後最初の事業年度は、設立の日から3か月を経過する日までに役員給与の額を定め、その後同額で支給すれば定期同額給与に該当します。設立直後に決めておきましょう。

Q8. 親会社の総会後でないと当社の役員報酬が決まらず、期首から3か月を過ぎてしまいます

親会社の役員給与を参酌して決定する常況にあり、親会社の定時株主総会後でなければ決議できないといった「特別の事情」がある場合は、その改定の時期までに行えば通常改定として認められ得ます(基本通達9-2-12の2)。事情を客観的に説明できるようにしておきましょう。

Q9. 確定申告期限の延長を受けています。改定期限はどうなりますか

申告期限の延長特例を受けている法人などは、「3月経過日等」が原則の3か月と異なる月数になる場合があります。自社に適用される具体的な期限を個別に確認してください。

Q10. うっかり期首から4か月目に増額してしまいました。役員報酬は全額損金不算入になりますか

全額ではありません。増額前の額が定期同額給与の基準となり、損金不算入となるのは増額した上乗せ部分(増額分×残り月数)に限られます。増額前の額に相当する部分は引き続き定期同額給与として扱われます。とはいえ上乗せ部分の課税は生じるため、期限内改定が望ましいことに変わりはありません。

年間スケジュール例(3月決算の場合)

時期 やること
3月期末まで 翌期の業績見通し・資金繰りを検討し、役員報酬の水準を試算
4月1日(期首) 新年度開始。改定するかどうかを最終検討
6月(定時株主総会) 翌期の役員報酬を決議。議事録を作成・保存
6月30日(3月経過日等)まで ここまでに改定(決議)を完了
改定後の支給時期以降 改定後の金額を各月同額で支給。社会保険の月額変更届も確認
期中 原則として動かさない。やむを得ない事情が生じた場合のみ、臨時改定事由・業績悪化改定事由の該当性を検討

まとめ

通常改定は、期首から一定期間内(原則3か月以内)に、理由を問わず役員報酬を増減できる、もっとも基本的な改定枠です。要点は、起算点は決算日ではなく期首であること、期限内に求められるのは改定(決議)であって支給ではないこと、額面または手取りのいずれかが各区間で同額であればよいこと、期限を外しても損金不算入は「定期同額でなくなった部分」に限られること、そして何より、期中で自由に動かせない以上、期首の水準設定が実務の勝負どころであること、です。

期首設定さえ丁寧に行えば、通常改定はもっとも安全でシンプルな改定方法です。逆に、設定を誤って期中に動かしたくなったときに頼ることになるのが臨時改定事由・業績悪化改定事由であり、それぞれハードルが高い、という関係を押さえておくと、年間を通じた役員報酬の設計がしやすくなります。判断に迷う場合は、顧問税理士への相談や、所轄税務署への事前照会の活用をおすすめします。役員報酬全体の枠組みについては、当サイトの関連記事もあわせてご確認ください。

この記事のまとめ
  • 通常改定は期首から原則3か月以内に行う役員報酬の改定枠。理由を問わず増減可能
  • 起算点は「決算日」ではなく「期首」。期限内に求められるのは改定(決議)であって支給ではない
  • 同額の判定は額面同額でも手取り同額でも可。経済的利益(社宅貸与など)も含む
  • 申告期限延長法人は3月経過日等が異なる。親会社参酌の「特別の事情」で例外あり(通達9-2-12の2)
  • 期限外の改定でも損金不算入は「上乗せ部分」に限られる(質疑応答事例)
  • 新設法人は設立日から3か月以内に決定。期首設定が実務の勝負どころ

※本記事は作成時点の法令・通達および公表資料(法人税法34条、法人税法施行令69条、法人税基本通達9-2-12の2、国税庁質疑応答事例「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)」等)に基づく一般的な解説です。個別の事案によって取扱いは異なる場合があるため、具体的な判断は最新の法令・通達の確認、顧問税理士への相談や所轄税務署への事前照会の活用をおすすめします。

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