役員報酬を期の途中で改定したい、その理由が役員の地位や職務の変動にある場合に検討するのが、臨時改定事由です。期中改定の3事由(通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由)の中で、増額・減額の双方に使え、税務署への届出も不要という柔軟さがある一方、要件が抽象的で実務での当てはめに迷いやすい制度でもあります。形式を整えただけでは認められず、「役員個人の地位・職務という客観的な事実が変わった」と説明できるかが勝負になります。
臨時改定事由には、基本的な枠組み(3要素の定義など)と、実務での当てはめという2つの側面があります。本記事は応用・実務編として、判断軸・類型別の当てはめ・業績悪化改定事由との使い分け・立証と手続・想定Q&Aを中心に深掘りします。基本的な枠組みについては、別途の関連記事で扱います。期首3か月以内の通常改定や業績悪化改定事由については、当サイトの関連記事もあわせてご覧ください。
- 臨時改定事由は、役員の地位・職務の変動に着目する期中改定枠。増減いずれも可
- 本質は「恣意的な改定」ではなく「地位・職務という客観的事実の変動に伴う受動的な改定」
- 判断の4軸は、非恣意性・偶発性/地位・職務との結びつき/変更の重大性・実質/金額との整合性
- 典型類型は、昇格・降格、代表者の急逝、病気・けが、不祥事の経営責任、M&A・組織再編、職務分掌の再編
- 株主構成の変動だけや業績悪化は、臨時改定事由ではなく別事由・別判断
- 大幅減額を伴う分掌変更は、退職給与(みなし退職)の論点も併せて検討
- なぜ臨時改定事由だけ「増減OK・届出不要」なのか
- 要件を分解する:3つの構成要素と4つの判断軸
- 類型別の当てはめ
- 臨時改定事由か業績悪化改定事由か、使い分けの判断
- 「改定前同額・改定後同額」をめぐる実務論点
- 否認されないための立証と手続
- 周辺論点・落とし穴
- 想定Q&A集(実務)
- Q1. 株式譲渡で完全子会社になった。代表者の報酬を減額したいが、臨時改定事由になるか
- Q2. 役職も職務も変わらないが、株主が代わったのでオーナー時代の高い報酬を下げたい
- Q3. 社長が病気で3か月入院することになった。報酬を減額し、復帰後に戻したい
- Q4. 代表取締役が急逝し、専務を急きょ代表取締役に選任した。報酬を増額したい
- Q5. 社長を会長にし、報酬を半分以下に下げる。臨時改定でよいか
- Q6. 業績が悪く、社長として経営責任を取るために報酬を下げたい
- Q7. 不祥事の責任として3か月だけ役員報酬を減額し、その後元に戻す
- Q8. 臨時改定をしたら、税務署への届出は必要か
- Q9. 期首3か月以内に通常改定をしたが、その後に役員が降格した。さらに下げてよいか
- Q10. 職務が変わったことを示す資料が議事録しかない。大丈夫か
- Q11. 減額の決議を、事由が起きた月より後にしてしまった。遡って下げてよいか
- 判断フロー(簡易版)
- まとめ
なぜ臨時改定事由だけ「増減OK・届出不要」なのか
期中改定の3事由のうち、臨時改定事由はやや特殊な位置づけにあります。通常改定は期首から3か月以内という「時期」で区切る定例の改定枠、業績悪化改定事由は会社全体の業績という「外形的事実」に着目し減額に限って認める枠です。これに対し、臨時改定事由は役員個人の「地位」や「職務内容」の変動という、会社にとって避けがたい事情に着目する枠で、増額・減額の双方に使えます。
臨時改定事由が増額・減額の双方に開かれているのは、その本質が「恣意的に金額をいじる改定」ではなく、「役員の地位・職務という客観的な事実が変わったことに伴う、いわば受動的な改定」だからです。代表者の急逝で後任が昇格すれば増額が必要になり、役員が病気で職務を担えなくなれば減額が必要になります。いずれも会社の都合で自由に作り出せる事情ではありません。この偶発性・非恣意性こそが、臨時改定事由を貫く一番の判断軸です。逆にいえば、「節税のために役職をいじった」と見られる改定は、形式を整えても認められません。
要件を分解する:3つの構成要素と4つの判断軸
臨時改定事由は、法人税法施行令69条1項1号ロにより、次の3要素で構成されます。職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情、です。
職制上の地位の変更とは
職制上の地位の変更とは、定款の規定や株主総会・取締役会の決議等によって付与された地位(役職)が変わることをいいます。基本通達9-2-12の3の注書きでも、「職制上の地位」とは定款等の規定または総会・取締役会の決議等により付与されたものを指すとされています。代表取締役・専務取締役・常務取締役・平取締役といった役職の異動が典型です。
職務の内容の重大な変更とは
職務の内容の重大な変更とは、役職名の変動を伴わなくても、担当する職務の中身が大きく変わることをいいます。役職はそのままでも、所管事業・権限・責任範囲が実質的に大きく変動した場合が該当し得ます。
これらに類するやむを得ない事情
これらに類するやむを得ない事情は残余要件ですが、職制上の地位の変更や職務の内容の重大な変更を基準点とする以上、あくまで地位・職務の変動に類するものが想定されています。何でも受け止める広い受け皿ではない点に注意が必要です。
当てはめの4つの判断軸
実務では、次の4軸で「臨時改定事由といえるか」を点検すると整理しやすくなります。
| 判断軸 | 内容 |
|---|---|
| (a) 非恣意性・偶発性 | 会社が自由に作り出せる事情ではなく、避けがたい事情か |
| (b) 地位・職務との結びつき | 改定の原因が、役員個人の地位・職務の変動にあるか(株主構成や業績ではなく) |
| (c) 変更の重大性・実質 | 形式(役職名)だけでなく、権限・職責の実態が大きく変わったか |
| (d) 金額との整合性 | 改定(特に減額)の幅が、地位・職務の変動の程度と釣り合っているか |
類型別の当てはめ
実務で登場する代表的な類型を、上の判断軸に照らして整理します。
A. 役職の昇格・降格(地位変更による改定)
もっとも分かりやすい類型です。専務が社長に就任する、平取締役が常務に昇格する、逆に降格する、いずれも職制上の地位の変更に当たります。基本通達9-2-12の3も、社長退任に伴い副社長が社長に就任する例を挙げています。昇格に伴う増額、降格に伴う減額のいずれも臨時改定事由になり得ます。
B. 代表者の死亡・急逝に伴う後任の就任(増額)
代表取締役の急逝により、急きょ他の取締役が代表取締役に就任し、その報酬を引き上げるケースです。国税庁の質疑応答事例でも、代表取締役の急逝に伴い後任取締役を代表取締役に選任し報酬を増額した事例について、職制上の地位の変更による臨時改定事由に該当するとされています。改定前は改定前で同額、改定後は改定後で同額であれば、両者とも定期同額給与に該当します。
C. 病気・けが・長期入院(減額から回復後の復元)
役員が病気やけがで長期入院し、当初予定していた職務の一部または全部を執行できなくなった場合の減額は、臨時改定事由に該当すると整理されています。国税庁の質疑応答事例でも、代表取締役が病気で入院し職務の一部を執行できなくなったため減額した事例が、臨時改定事由に当たるものとして示されています。
この類型の実務上のポイントは2つあります。ひとつは、役職が変わらなくてもよいという点です。地位の変更がなくても、「これまでと同等の職務を執行できない」という事実が生じていれば、職務内容の重大な変更(またはこれに類するやむを得ない事情)として該当し得ます。もうひとつは、回復後の増額(復元)も別の臨時改定事由になり得るという点です。退院・回復して通常職務に復帰したことに伴い、入院前の金額に戻す増額改定も、改めて臨時改定事由として認められ得ます。つまり「減額」と「復元増額」で年に2回改定することになりますが、それぞれに独立した事由があれば差し支えありません。なお、出産・産休に伴い職務執行が一定期間困難になる場合も、一般に病気入院等と同様に判断できると解されています。
D. 不祥事・経営責任による一定期間の減額
役員の不祥事等に対する経営責任として、一定期間役員報酬を減額し、期間経過後に元へ戻すケースです。国税庁の質疑応答事例(役員給与に関するQ&A)でも、こうした一定期間の減額が取り上げられており、臨時改定事由に類するものとして扱われ得ると整理されています。ここでも「期間を区切って減額し、後に戻す」という構造になるため、減額・復元の双方について事由と決議を備えておくことが重要です。
ただし、後述のとおり、「会社の業績悪化に対する経営責任」としての減額は、むしろ業績悪化改定事由の射程として検討すべき場合があり、切り分けに注意が必要です。
E. M&A・組織再編に伴う職務内容の変更
基本通達9-2-12の3は、合併に伴いその役員の職務の内容が大幅に変更される場合を、職務内容の重大な変更の例示としています。組織再編を契機とする職務内容の大幅変更が想定されているわけです。
一方、株式譲渡によるオーナーチェンジは通達に明示されていません。株式譲渡は会社の法人格・契約関係・雇用関係がそのまま存続し、株主が交代するだけの形態であるため、それ自体では役員の職務は当然には変わりません。したがって、株式譲渡を契機とする改定は、一般原則(職務の内容の重大な変更、これに類するやむを得ない事情)への個別の当てはめとして判断され、「支配者が変わったから」ではなく「支配者の変更を契機に役員の職務が現に大きく変わったから」という構成になります。
F. 担当役員の交代・職務分掌の再編
組織変更により、ある役員の所管事業や職務分掌が大きく組み替えられた場合も、職務内容の重大な変更に当たり得ます。役職名は同じでも、所管・権限・責任範囲の実質的な変動を客観的に示せるかが鍵です。
臨時改定事由か業績悪化改定事由か、使い分けの判断
減額のケースでは、「臨時改定事由」と「業績悪化改定事由」のどちらで整理すべきか迷う場面が頻出します。両者の違いを押さえておきましょう。
| 観点 | 臨時改定事由 | 業績悪化改定事由 |
|---|---|---|
| 着目点 | 役員個人の地位・職務の変動 | 会社の経営状況の著しい悪化 |
| 増額/減額 | 増額・減額のいずれも可 | 減額に限る |
| 典型例 | 昇格・降格、病気、職務分掌の大幅変更、組織再編に伴う職務変更 | 業績の著しい悪化により、株主・債権者・取引先との関係上やむを得ず減額する場合 |
| 立証のポイント | 地位・職務がどう変わったかの客観的証跡 | 著しい悪化の事実と、減額せざるを得ない外部関係(株主・銀行・取引先等)の存在 |
| 届出 | 不要(定期同額給与の場合) | 不要(定期同額給与の場合) |
実務で誤りやすいのが、「単に業績目標に届かなかった」「一時的に資金繰りが厳しい」といった事情を業績悪化改定事由と捉えてしまうケースです。業績悪化改定事由は「著しい」悪化が要件であり、一時的な資金繰りや目標未達はこれに当たらないとされています。ハードルは高いと考えてください。
なお、不祥事に対する経営責任としての一定期間の減額は臨時改定事由に類するものとして扱われ得る一方、業績悪化に対する経営責任としての減額は業績悪化改定事由の検討対象になり得るなど、「経営責任」という言葉でひとくくりにせず、減額の実質的な原因で切り分けることが重要です。
「改定前同額・改定後同額」をめぐる実務論点
年に複数回の改定はできるか
定期同額給与は「期中の改定は原則一度」が安全とされますが、それぞれに独立した臨時改定事由があれば、年に複数回の改定も認められ得ます。典型は前述の病気のケースで、発病・入院に伴う減額と、回復・復帰に伴う増額(復元)、という2回の改定が、それぞれ別個の臨時改定事由として整理されます。このとき、各区間(改定前・中間・改定後)ごとに支給額が同額であることが必要です。
改定のタイミング(遡及はNG)
改定は、事由が発生した時点を踏まえ、その後の支給時期から適用するのが原則です。事由の発生より前に遡って減額・増額する(遡及改定)と、定期同額給与の判定上問題が生じます。決議も、事由の発生に対応して速やかに行い、議事録に残しておくべきです。
月の途中で事由が発生した場合
事由が月の途中で発生したケースで、その月を日割計算して支給する取扱いが論じられることがあります。ただし日割りは判断が微妙になりやすいため、実務上は支給時期(月)の区切りで改定する設計にしておくのが安全です。日割りを検討する場合は、事前に専門家に確認することをおすすめします。
通常改定と臨時改定の併存
同一事業年度において、期首3か月以内の通常改定を行い、その後に臨時改定事由が発生してさらに改定する、という併存も起こり得ます。それぞれの事由・時期・金額を区分し、各区間で同額になっているかを丁寧に確認します。翌期の通常改定を例年どおり行うことも、もちろん妨げられません。
否認されないための立証と手続
臨時改定事由は要件が抽象的なため、最終的には「事実をどれだけ客観的に説明できるか」が勝負になります。次の備えを徹底しましょう。
決議と議事録
役員報酬の改定は株主総会の決議事項です(取締役会設置会社で個別額の決定を取締役会・代表取締役に委任している場合は、その決議・記録も)。臨時改定事由による期中改定でも、手続自体は通常改定と同じく、招集・決議・議事録作成・保存が必要です。議事録には、改定の理由(どの事由に当たるか)を具体的に記載しておくことが望まれます。
事由を裏付ける客観資料(類型別の例)
| 類型 | 用意しておきたい客観資料 |
|---|---|
| 地位の変更 | 登記事項、株主総会・取締役会議事録、辞令・人事発令 |
| 病気・入院 | 診断書、入院・通院の記録、職務執行が困難であった事実を示す資料 |
| 職務分掌の変更 | 組織図(変更前後)、職務権限規程、業務分掌規程 |
| M&A・組織再編 | 株式譲渡契約書、合併契約書、グループ管理規程・決裁権限規程(権限が親会社へ移った範囲を示すもの) |
金額の合理性
特に減額では、減額幅が地位・職務の変動の程度と整合していることが望ましく、職責縮小に比して不自然に大きい減額は恣意性を疑われ得ます。「なぜこの金額なのか」を説明できるようにしておきます。
恣意性の排除
利益調整・節税を目的とした改定は、形式を整えても臨時改定事由に該当しません。とりわけ同族会社では恣意性を疑われやすいため、事由の客観性をより丁寧に裏付ける必要があります。
周辺論点・落とし穴
分掌変更に伴う大幅減額と「みなし退職給与」
社長から会長への分掌変更等に伴って報酬を大幅に減額する場合、その減額が実質的な退職と評価されると、支給する金品が役員退職給与(基本通達9-2-32)の問題に発展することがあります。一般に、常勤から非常勤への変更、取締役から監査役への変更、報酬がおおむね50%以上減少するなど、実質的に退職したと同様の事情があると認められる場合が議論の対象です。大幅減額を伴う分掌変更では、定期同額給与(臨時改定)の論点だけでなく、退職給与の論点も併せて検討する必要があります。
使用人兼務役員
使用人兼務役員の場合、使用人としての職務に対する給与(使用人分)の扱いは役員給与の規律と区別して考える必要があります。改定の設計時に役員分・使用人分の区分を意識しておきます。
新任役員は「改定」ではない
期中に新たに役員へ就任した者に初めて支給する給与は、既存の給与の「改定」ではなく支給の開始です。定期同額給与の判定は、就任後の各支給時期について行います。
事前確定届出給与の臨時改定事由とは別物
事前確定届出給与にも臨時改定事由の概念はありますが、こちらは変更届出(届出期限あり)が必要です。定期同額給与の臨時改定では届出不要であるのと異なります。賞与的な支給を伴う場合は、どちらの制度の話なのかを取り違えないよう注意してください。
想定Q&A集(実務)
Q1. 株式譲渡で完全子会社になった。代表者の報酬を減額したいが、臨時改定事由になるか
決め手は「支配者が変わったこと」ではなく「代表者の職務が実質的に大きく変わったか」です。完全子会社化に伴い、予算・投資・人事・資金調達などの重要意思決定権限が親会社の承認事項となり、従来オーナーとして持っていた最終決定権が実質的に失われたといえ、それを決裁権限規程やグループ管理規程等で客観的に示せるのであれば、職務内容の重大な変更として該当を主張できます。逆に、代表のまま従前どおりの権限・職務で経営を続けており、変わったのは株主だけ、という実態であれば該当は難しく、否認リスクが高まります。
Q2. 役職も職務も変わらないが、株主が代わったのでオーナー時代の高い報酬を下げたい
これは原則として臨時改定事由に該当しません。減額の原因が役員の地位・職務ではなく資本関係の変動にあるためです。職務の縮小という実質が伴わない限り、定期同額給与としての損金算入は難しいと考えられます。
Q3. 社長が病気で3か月入院することになった。報酬を減額し、復帰後に戻したい
入院により当初予定していた職務の執行が困難になったのであれば、減額は臨時改定事由に該当し得ます。復帰後に元へ戻す増額も、別個の臨時改定事由として認められ得ます。診断書や職務執行困難の記録、各改定の取締役会・株主総会の決議と議事録を整えておきましょう。
Q4. 代表取締役が急逝し、専務を急きょ代表取締役に選任した。報酬を増額したい
職制上の地位の変更に当たり、臨時改定事由に該当します。改定前は改定前で同額、改定後は改定後で同額であれば、両者とも定期同額給与になります。
Q5. 社長を会長にし、報酬を半分以下に下げる。臨時改定でよいか
分掌変更による職務の重大な変更として臨時改定事由を検討できますが、報酬がおおむね50%以上減少するなど実質的な退職と評価される事情がある場合、役員退職給与(みなし退職)の論点が併せて生じ得ます。定期同額給与の論点だけで処理せず、退職給与の取扱いも検討してください。
Q6. 業績が悪く、社長として経営責任を取るために報酬を下げたい
「会社の業績悪化に対する経営責任」としての減額は、臨時改定事由ではなく業績悪化改定事由の射程で検討すべき場合があります。ただし業績悪化改定事由は「著しい悪化」が要件で、一時的な資金繰り難や目標未達では足りません。減額の原因が役員個人の地位・職務にあるのか会社全体の業績にあるのかで、どちらの事由かを切り分けてください。
Q7. 不祥事の責任として3か月だけ役員報酬を減額し、その後元に戻す
不祥事に対する一定期間の減額は、臨時改定事由に類するものとして扱われ得ます。期間を区切った減額と、その後の復元のそれぞれについて、理由を記した決議・議事録を残しておきましょう。
Q8. 臨時改定をしたら、税務署への届出は必要か
定期同額給与の改定であれば届出は不要です。届出が必要なのは事前確定届出給与の場合です。ただし、会社法上の決議と議事録の作成・保存は必須です。
Q9. 期首3か月以内に通常改定をしたが、その後に役員が降格した。さらに下げてよいか
通常改定と臨時改定は同一年度に併存し得ます。降格という地位の変更があるのであれば、通常改定後の臨時改定として減額が認められ得ます。各区間で支給額が同額になっているかを確認してください。
Q10. 職務が変わったことを示す資料が議事録しかない。大丈夫か
議事録は重要ですが、それだけでは「形式」に偏りがちです。組織図の変更前後、職務権限規程・分掌規程、(M&Aなら)契約書や決裁権限規程など、職務・権限が実際にどう変わったかを示す客観資料を併せて整えておくと、否認リスクを下げられます。
Q11. 減額の決議を、事由が起きた月より後にしてしまった。遡って下げてよいか
遡及改定は定期同額給与の判定上問題となります。決議は事由の発生に対応して速やかに行い、適用はその後の支給時期からとするのが原則です。タイミングがずれた場合の取扱いは慎重な検討が必要なので、専門家に確認してください。
判断フロー(簡易版)
期中に役員報酬を改定する際の大まかな思考順序です。
| 手順 | 判断内容 |
|---|---|
| 1 | それは期首3か月以内の改定か。Yesなら通常改定で処理(増減自由) |
| 2 | Noの場合、改定の原因が役員個人の地位・職務の変動なら臨時改定事由を検討(増減いずれも可) |
| 3 | 会社の業績の著しい悪化なら業績悪化改定事由を検討(減額のみ) |
| 4 | どちらでもない(株主構成の変動だけ、利益調整目的など)なら、定期同額給与としての損金算入は困難 |
| 5 | 臨時改定事由を選ぶ場合、4つの軸(非恣意性・偶発性/地位・職務との結びつき/重大性・実質/金額の整合性)で点検 |
| 6 | 決議・議事録・客観資料を整備し、各区間で同額になるよう設計 |
| 7 | 大幅減額を伴う分掌変更なら、退職給与(みなし退職)の論点も併せて確認 |
まとめ
臨時改定事由は、「役員の地位・職務という、会社にとって避けがたい事情の変動」を捉える制度です。増額・減額の双方に使え、届出も不要という柔軟さがある反面、その柔軟さは「恣意的に金額を動かす改定ではない」という前提に支えられています。
実務で押さえるべきは、改定の原因を地位・職務の変動として説明できるか、その変動が形式ではなく実質を伴う「重大な」ものか、金額が変動の程度と整合しているか、それを客観資料で裏付けられるか、という点です。株主構成の変動や業績不振を、安易に臨時改定事由へ流し込まないこと、これが否認を避ける最大のポイントといえます。
判断に迷う場合は、顧問税理士への相談や、所轄税務署への事前照会の活用をおすすめします。期首3か月以内の通常改定や、業績悪化改定事由については、当サイトの関連記事もあわせてご確認ください。
- 臨時改定事由は役員の地位・職務の変動に着目する期中改定枠(施行令69条1項1号ロ)。増減いずれも可・届出不要
- 判断の4軸は、非恣意性・偶発性/地位・職務との結びつき/変更の重大性・実質/金額との整合性
- 典型類型は、昇格・降格、代表者の急逝、病気・けが、不祥事の経営責任、M&A・組織再編、職務分掌の再編
- 株主構成の変動だけでは原則該当しない。職務が実質的に大きく変わったかで判断
- 業績悪化との切り分けは「原因が役員個人の地位・職務か、会社全体の業績か」
- 大幅減額を伴う分掌変更は、退職給与(みなし退職)の論点も併せて検討
- 議事録だけでなく、組織図・職務権限規程・契約書等の客観資料で裏付ける
※本記事は作成時点の法令・通達および公表資料(法人税法34条、法人税法施行令69条1項1号ロ、法人税基本通達9-2-12の3、基本通達9-2-32、国税庁「役員給与に関するQ&A」等)に基づく一般的な解説です。質疑応答事例の番号・内容は改訂される場合があります。本記事は応用・実務編であり、基本的な枠組みは別記事で扱います。個別事案の判断は、最新の法令・通達の確認、顧問税理士への相談や所轄税務署への事前照会の活用をおすすめします。


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