インボイスの2割特例とは?対象者・計算方法・いつまで適用可能かなど徹底解説

消費税

インボイス制度の2割特例は、免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者の負担を軽減する時限措置で、納付税額を売上に係る消費税額の2割とすることができます。事前の届出は不要で、申告時に選択するだけで適用可能です。本記事では、2割特例の対象者・計算方法・適用期間・原則課税や簡易課税との比較・令和8年度税制改正で新設された3割特例まで、国税庁の最新情報に基づき計算例付きで詳しく解説します。

2割特例とは

2割特例の概要

2割特例とは、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった事業者を対象に、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の2割とすることができる時限的な負担軽減措置です。正式名称は「インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置」で、平成28年改正法附則第51条の2に規定されています。

2割特例による納付税額 = 売上に係る消費税額 × 20%

つまり、売上に係る消費税額の8割を仕入控除税額とみなす計算方法であり、結果として納付税額は売上税額の2割で済むという特例です。

制度の趣旨

インボイス制度(適格請求書等保存方式)は令和5年10月1日から開始され、これにより従来は消費税の納税義務が免除されていた免税事業者が、課税事業者となってインボイスを発行するか、免税事業者のままで取引先からの値引き要請等を受け入れるかという選択を迫られることになりました。

2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった小規模事業者に対して、税負担と事務負担の両面から急激な負担増を緩和するために設けられた経過措置です。

「8割控除」とは異なる点に注意:「2割特例」と紛らわしい制度に、買い手側の経過措置である「8割控除(免税事業者等からの仕入れに係る経過措置)」があります。8割控除は買い手が免税事業者等から仕入れる際の経過措置で、両者は別の制度です。本記事の「2割特例」は売り手側(インボイス登録した元免税事業者)の特例です。

2割特例のメリット

① 納税額の軽減 売上の消費税額の2割で済むため、本則課税や多くの業種の簡易課税よりも納税額が少なくなる。
② 事前届出不要 簡易課税のように事前の届出書提出は不要。申告書に記載するだけで適用できる。
③ 課税期間ごとに選択可能 簡易課税のような2年継続適用義務がない。各課税期間ごとに有利な方を選択できる。
④ 事務負担の軽減 仕入税額を1件ずつ集計する必要がないため、経理事務の負担が大幅に軽減される。
⑤ インボイスの保存不要 仕入税額控除のためのインボイス保存が不要(簡易課税と同様)。

2割特例の計算方法

基本の計算式

2割特例による消費税の納付税額は、次の式で計算します。

納付税額 = 売上に係る消費税額 − 売上に係る消費税額 × 80%
= 売上に係る消費税額 × 20%

つまり、課税仕入れの実額を計算する必要はなく、売上に係る消費税額さえ把握すれば、その2割が納付税額となります。

具体的な計算例

計算例①:個人事業主のフリーランス(年間売上700万円)

A氏の状況(税抜・標準税率10%):

  • 年間課税売上高:700万円
  • 売上に係る消費税額:700万円 × 10% = 70万円

2割特例による納付税額:70万円 × 20% = 14万円

※ 実際には地方消費税(消費税額の22/78)も加算されます。

計算例②:法人(年間売上900万円)

B社の状況(税抜・標準税率10%):

  • 年間課税売上高:900万円
  • 売上に係る消費税額:900万円 × 10% = 90万円

2割特例による納付税額:90万円 × 20% = 18万円

原則課税との比較

比較例:上記A氏が原則課税の場合

仕入・経費の実態:

  • 課税売上高:700万円(消費税70万円)
  • 課税仕入れ高:200万円(消費税20万円)

原則課税の納付税額:70万円 − 20万円 = 50万円

2割特例の納付税額:70万円 × 20% = 14万円

→ 2割特例の方が36万円有利

重要なポイント:2割特例は、実際の仕入率が80%より低い事業者(=人件費の割合が高い・課税仕入が少ない事業者)にとって特に有利です。フリーランス・コンサルタント・士業など、課税仕入が少ない業種で2割特例の効果が大きくなります。

2割特例の対象者

2割特例の適用要件

2割特例の適用を受けられるのは、以下のすべての要件を満たす事業者です。

2割特例の適用要件
  1. インボイス発行事業者の登録を受けていること(登録がなければ消費税を納める義務が免除される者)
  2. インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった者であること
  3. 当該課税期間が令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間であること
  4. 基準期間(個人:前々年、法人:前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であること
  5. 特定期間の課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円以下であること
  6. 資本金1,000万円以上の新設法人や特定新規設立法人など、インボイス登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けない事業者でないこと
  7. 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った事業者でないこと
  8. 課税期間を1か月または3か月に短縮する特例の適用を受けていないこと
基本的な考え方:2割特例は、「インボイス発行事業者の登録がなかったとしたら、消費税を納める義務が免除されていた」事業者を対象としています。インボイス登録と関係なく課税事業者になる事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円超など)は、2割特例の対象外です。

2割特例が適用できないケース

以下のような場合は、2割特例の対象外となります。

適用できないケース 理由
基準期間の課税売上高が1,000万円超 インボイス登録と関係なく課税事業者となる事業者のため
特定期間の課税売上高(または給与等支払額)が1,000万円超 同上
資本金1,000万円以上の新設法人 新設法人の納税義務免除の特例が適用されないため
特定新規設立法人 親会社等の課税売上高による特例が適用されるため
調整対象固定資産・高額特定資産を取得した課税期間 仕入税額控除を行った特例の対象期間中のため
課税期間の短縮特例の適用を受けている期間 1か月・3か月の短縮課税期間中のため
インボイス制度開始前(令和5年9月30日以前)から既に課税事業者だった事業者 インボイス制度を機に課税事業者になった者ではないため

課税事業者選択届出書を提出していた場合の取扱い(重要)

インボイス制度開始前に「消費税課税事業者選択届出書」を提出して既に課税事業者となっていた事業者は、原則として2割特例の対象外です。ただし、以下のような救済措置があります。

救済措置:課税事業者選択不適用届出書の提出

令和4年中に「消費税課税事業者選択届出書」と「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、令和5年1月から課税事業者となった事業者については、令和5年10月1日を含む課税期間中に「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出することで、課税事業者選択届出書の効力を失わせることができます。

これにより、令和5年1月〜9月分の納税義務が免除され、令和5年10月1日からインボイス発行事業者として課税事業者となるため、2割特例の適用を受けられるようになります。

簡易課税制度選択届出書を提出していても2割特例は使える

すでに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している事業者であっても、2割特例の適用を受けることは可能です。簡易課税制度選択届出書を取り下げる必要はありません。

申告の際に、2割特例と簡易課税のどちらを適用するかを各課税期間ごとに選択することができます。

2割特例の適用期間

適用期間:令和5年10月1日〜令和8年9月30日

2割特例を適用できる期間は、令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの日の属する各課税期間です。

令和5年10月1日 〜 令和8年9月30日
(の日の属する課税期間)

個人事業主の場合(暦年の課税期間)

個人事業主は課税期間が1月1日から12月31日までの暦年であるため、以下の計4回の申告で2割特例を適用できます。

適用課税期間 申告期限 備考
令和5年10月〜12月分 令和6年3月31日 登録日から12月31日までの期間のみ
令和6年分(1〜12月) 令和7年3月31日 通年で適用可能
令和7年分(1〜12月) 令和8年3月31日 通年で適用可能
令和8年分(1〜12月) 令和9年3月31日 最終年(9月30日含む課税期間まで適用)

法人の場合(事業年度に応じて異なる)

法人は事業年度ごとに課税期間が定まるため、決算月によって2割特例の適用回数や期間が異なります。

具体例:3月決算法人が令和5年10月1日から登録を受けた場合

以下の計4回の申告で2割特例を適用できます。

  1. 令和5年10月〜令和6年3月分の申告
  2. 令和6年4月〜令和7年3月分の申告
  3. 令和7年4月〜令和8年3月分の申告
  4. 令和8年4月〜令和9年3月分の申告(令和8年9月30日が含まれる課税期間まで)
「9月30日の属する課税期間まで」のポイント:適用期間は「令和8年9月30日までの日の属する課税期間」とされているため、9月30日が含まれる課税期間の最終日まで2割特例が適用できます。例えば3月決算法人の場合、令和8年4月〜令和9年3月の事業年度は令和8年9月30日を含むため、この事業年度まで適用可能です。

2割特例の適用手続き

事前の届出は不要

2割特例の適用に当たり、事前の届出書の提出は不要です。簡易課税制度のように「適用しようとする課税期間の前日まで」といった届出期限はありません。

申告書への記載

2割特例を適用する場合は、消費税の確定申告書の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」の欄に〇を付けて申告します。具体的な記載方法については、国税庁の「2割特例用 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き(個人事業者・法人共通)」を参照してください。

申告書類
  • 消費税及び地方消費税の確定申告書 第一表(一般用または簡易課税用)
  • 消費税及び地方消費税の確定申告書 第二表
  • 税率別消費税額計算表

課税期間ごとに選択可能

2割特例は、消費税の申告を行う都度、適用を受けるかどうかを選択することができます。簡易課税制度のような2年継続適用義務はありません

各課税期間ごとに、原則課税・簡易課税・2割特例のうち有利な方を選んで申告できる柔軟性が、2割特例の大きなメリットです。

選択の制限:ただし、申告する課税期間が2割特例の適用対象となる課税期間でなければなりません。例えば、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えるような課税期間については、その課税期間において2割特例は適用できません。

2割特例・簡易課税・原則課税の比較

3つの制度の主な違い

項目 原則課税 簡易課税 2割特例
納付税額の計算 売上税額 − 仕入税額(実額) 売上税額 × (1 − みなし仕入率) 売上税額 × 20%
事前届出 不要 必要(前課税期間末まで) 不要
2年継続適用義務 なし あり なし
適用対象者 課税事業者全般 基準期間の課税売上高5,000万円以下 インボイス登録した元免税事業者
期間制限 なし なし 令和8年9月30日属する課税期間まで
仕入税額の集計 必要 不要 不要
インボイスの保存 必要 不要 不要
還付の可能性 あり なし なし

2割特例と簡易課税の有利・不利

2割特例は、売上に係る消費税額の80%を仕入控除税額とみなすため、簡易課税のみなし仕入率80%(第2種事業の小売業等)と同じ控除割合になります。事業区分別に2割特例と簡易課税のどちらが有利か比較してみましょう。

事業区分 簡易課税のみなし仕入率 2割特例(実質80%控除) 有利な制度
第1種事業(卸売業) 90% 80% 簡易課税が有利
第2種事業(小売業等) 80% 80% 同等(届出不要の2割特例が有利)
第3種事業(製造業等) 70% 80% 2割特例が有利
第4種事業(飲食店業等) 60% 80% 2割特例が大幅に有利
第5種事業(サービス業等) 50% 80% 2割特例が大幅に有利
第6種事業(不動産業) 40% 80% 2割特例が大幅に有利
結論:2割特例が適用できる期間中は、第1種事業(卸売業)を除いて、ほぼすべての事業区分で2割特例の方が有利です。サービス業や不動産業など、簡易課税のみなし仕入率が低い業種では特に大きな差が出ます。

2割特例と原則課税の有利・不利の目安

2割特例 vs 原則課税の判定の目安

原則課税の方が有利になるのは、実際の課税仕入れの割合が売上の80%超の場合です。

  • 課税仕入率が80%超 → 原則課税が有利(特に多額の設備投資があり還付になる場合)
  • 課税仕入率が80%以下 → 2割特例が有利

※ 一般的なフリーランスやサービス業は課税仕入率が低い(30〜50%程度)ため、2割特例の方が圧倒的に有利になります。

2割特例終了後の対応(令和8年度税制改正)

3割特例の新設(個人事業主のみ・令和9年・令和10年分)

令和8年度税制改正により、2割特例終了後の負担軽減措置として、3割特例が新設されました。3割特例は、個人事業主のみが対象で、令和9年(2027年)分および令和10年(2028年)分の申告で適用できます。

3割特例による納付税額 = 売上に係る消費税額 × 30%
法人は対象外:3割特例は個人事業主のみが対象です。法人については令和8年度税制改正で延長措置が行われなかったため、2割特例終了後(令和8年10月以降に開始する課税期間)は、原則として本則課税または簡易課税の対象となります。

2割特例・3割特例の比較

項目 2割特例 3割特例
納付税額 売上税額 × 20% 売上税額 × 30%
対象者 インボイス登録した元免税事業者(個人・法人) 個人事業主のみ
適用期間 令和5年10月〜令和8年9月30日属する課税期間 令和9年分・令和10年分の申告
事前届出 不要 不要

法人の2割特例終了後の選択肢

法人は3割特例の対象外であるため、2割特例終了後は以下のいずれかを選択する必要があります。

選択肢 特徴 手続き
原則課税 仕入税額の実額を集計。インボイスの保存が必要 届出不要(自動的に適用)
簡易課税 みなし仕入率による計算。事務負担軽い 「消費税簡易課税制度選択届出書」を前課税期間末までに提出が必要
2割特例から簡易課税への切替えは自動ではない:2割特例の適用が終了しても、自動的に簡易課税に切り替わるわけではありません。簡易課税の適用を受けるには、原則として適用しようとする課税期間の開始の日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。届出が間に合わない場合は原則課税となり、事務負担が大幅に増加します。

2割特例終了直後の簡易課税適用の特例

2割特例の適用を受けた事業者が、2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した場合、その提出した日の属する課税期間(同日以後)から簡易課税の適用を受けることができる特例があります。

通常、簡易課税の適用を受けるためには「適用しようとする課税期間の前日まで」に届出書を提出する必要がありますが、2割特例終了後はこの特例により、当該課税期間中の届出でも簡易課税の適用が可能です。

2割特例適用上の注意点

適用期間中も売上が急増した場合は適用不可

2割特例の適用期間中であっても、基準期間(個人:2年前、法人:2事業年度前)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間から2割特例の対象外となります。売上の急増が見込まれる場合は、2年前の売上を常に確認しておくことが重要です。

還付は受けられない

2割特例は、簡易課税と同様、仕入控除税額が売上に係る消費税額に基づいて計算されるため、必ず売上税額の方が大きくなります。したがって、2割特例では消費税の還付を受けることはできません

大規模な設備投資などを予定している場合は、原則課税を選択した方が還付を受けられる可能性があるため、事前に試算しておくことが重要です。

インボイスの交付義務は通常通り発生

2割特例を適用していても、自社がインボイス発行事業者として登録している以上、取引先(買い手)の求めに応じてインボイスを発行する義務はあります。2割特例はあくまで仕入側の税額計算の特例であり、売り手としてのインボイス交付義務には影響しません。

2割特例期間中に大規模設備投資を行う場合の検討

2割特例の適用期間中であっても、大規模な設備投資を予定している場合は、その課税期間だけ原則課税を選択することで還付を受けることができます。

2割特例は課税期間ごとに選択可能であるため、設備投資のある年は原則課税、それ以外の年は2割特例、というように使い分けることが可能です。事前にシミュレーションを行い、有利な方を選択しましょう。

まとめ

この記事のポイント
  • 2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者の負担軽減措置
  • 納付税額は売上に係る消費税額の20%(売上税額の80%を仕入控除税額とみなす)
  • 適用期間:令和5年10月1日〜令和8年9月30日の日の属する課税期間
  • 事前届出は不要。申告書に記載するだけで適用可能
  • 課税期間ごとに選択可能(簡易課税のような2年継続適用義務なし)
  • 個人事業主は計4回(令和5年10〜12月分、令和6年分、令和7年分、令和8年分)の申告で適用可能
  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超える等の場合は適用不可
  • 2割特例の方が、第1種事業(卸売業)を除くほぼすべての事業区分で簡易課税より有利
  • 令和8年度税制改正で「3割特例」が新設(個人事業主のみ・令和9年・令和10年分)
  • 法人は3割特例の対象外。2割特例終了後は原則課税または簡易課税の選択が必要
  • 2割特例から簡易課税への切替えは自動ではない。届出書の提出が必要
  • 2割特例終了後の翌課税期間中の届出でも簡易課税適用が可能な特例あり
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  4. 消費税の計算方法(原則課税)
  5. 消費税の税区分(課税・非課税・免税・不課税)
  6. 納税義務判定①:基準期間・1,000万円の判定
  7. 納税義務判定②:特定期間による判定
  8. 納税義務判定③:新設法人・特定新規設立法人の特例
  9. インボイス制度とは?
  10. 消費税の簡易課税制度を完全解説
  11. 【今ここ】インボイスの2割特例とは?対象者・計算方法・いつまで使えるか徹底解説
  12. 消費税の申告・納付

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